vol.08
BtoB営業を「当たりに行く仕事」から解放する
マーケティング史 四人の視点
ニール・マッケルロイ × セオドア・レビット × 盛田昭夫 × エスター・ピーターソン

マッキンゼー調査によれば、デジタルマーケティングに積極的なBtoB企業の収益成長率は、そうでない企業の約5倍——。プッシュ型(企業から当たり続ける営業)からプル型(顧客が自ら来る状態を設計する営業)への転換が、この差を生んでいるという。だが「顧客が検索してくれる」という前提そのものが、いつでも成り立つわけではないとしたら。今宵の酒場には、組織にブランドの責任を刻んだ実務家と、事業の定義そのものを問い続けた学者、検索されない需要をつくってきた実業家、そして測定される側の視点を手放さない政策家をお招きしました。「顧客が来る仕組み」を設計するとはどういうことか、四つの立場から検証します。
Cast
ニール・マッケルロイ主流・組織設計P&Gの経営者。1931年のいわゆるBrand Menメモで、ブランドごとに担当者と責任を置く組織原型を定式化した。
セオドア・レビット主流・事業定義ハーバード・ビジネス・スクールのマーケティング研究者。製品ではなく顧客の必要によって事業を定義せよと促した。
盛田昭夫補完・非西洋/市場創造1921–1999。1946年に井深大と東京通信工業(現ソニー)を創業。1958年に社名をソニーへ変更し、海外での販売・資本の足場を自前で築いた。
エスター・ピーターソン補完・消費者運動消費者運動家・政策担当者。消費者利益を企業経営と公共政策の議題へ持ち込んだ。
進行
本日のお題は「BtoB営業を当たりに行く仕事から解放する」。デジタルマーケティングに積極的な企業は収益成長率が約5倍だという記事です。まず、この転換の本質はどこにありますか。
ニール・マッケルロイ
私が社内メモで書いたのは、ブランドごとに担当を置き、その人物に数字の責任を負わせよ、という一点でした。記事が「全工程を営業一人が担う設計を分解せよ」と言うのは、同じ話をしています。ただ注意したい。分けること自体は目的ではありません。誰がどの数字を持つかを決めるのが目的です。記事が最重要論点に「ホットリードの定義」を挙げたのは正しい。定義のないまま部門を分ければ、境目に落ちるリードが必ず出る。分業は、責任の線を引いて初めて分業になります。
セオドア・レビット
私が危ういと感じるのは「デジタルマーケティングを入れる」という言い方です。鉄道会社が自らを鉄道業だと思い込んで衰退したのと、構造が同じになりかねない。MAもSEOも手段でしょう。問うべきは、うちの顧客は何を片付けたくて検索窓を開いたのか。記事の第一の役割「企業分析」を、ターゲット企業リストの作成に矮小化した瞬間、結局は名簿を持っているだけの状態に戻ります。
盛田昭夫
私はその「検索窓を開いた」という前提に引っかかります。顧客が自分の課題を言葉にできている場合にしか、この仕組みは動かない。私どもが小型の再生機を出そうとしたとき、売れないと言ったのは市場ではありません。自社の製造と販売の担当者でした。説いて回っても、ほとんどの者が誠に冷ややかだった。あのとき問い合わせを待っていたら、あの製品は世に出ていません。
進行
では何を手がかりにされたのですか。
盛田昭夫
聞くのをやめて、渡しました。試作機を自分で持ち歩き、家内や友人がどう使うかを見た。意見を集めるのではなく、行動を見る。その意味で、記事が挙げるスコアリング——資料をどれだけ落としたか、何度サイトに来たか——は方向として正しい。意見でなく行動を数えているのですから。ただしその数字が映すのは、来た人の行動だけです。来ていない人は、何をしていても見えません。
セオドア・レビット
それは私の言う近視眼の、もう一つの現れ方ですね。市場を「検索している人の集合」と定義してしまう。
盛田昭夫
もう一点。私どもは大量の注文を、自社の名前で売れないという理由で断りました。社内には惜しいという声があった。売れる量ではなく、誰の名前で売るかを取ったのです。記事が最初の一歩に「専用サイトを立ち上げよ」と置いたのは、実は同じ問題を扱っています。誰の名前で、何を約束する場所なのか。
進行
5倍という数字自体はどう見ますか。
セオドア・レビット
因果が逆の可能性を残すべきです。伸びている企業だから投資できた、という説明もつく。
ニール・マッケルロイ
同意します。ただ記事の失敗パターン③——プッシュ型を全部やめる——への処方は正しい。組織の設計を変えるのに、いま入っている収益を止める必要はありません。盛田さんの言う「まだ検索していない顧客」に会いに行く手段は、当面プッシュ型しかないのですから。
エスター・ピーターソン
一点だけ、買う側から申し上げます。盛田さんの「意見ではなく行動を見る」は、売り手の側から見れば正しい。ですが行動を見られる側は、見られていることを知りません。開封したか、何度来たか。売り手が「育てる」と呼ぶ工程は、買い手からは「数えられている」と映ります。プル型の前提は、客が自分の意思で来たと思えることでしょう。その感覚を測定が壊すなら、5倍は続きません。
盛田昭夫
それは反論しにくい。私は家内が使う様子を見ていましたが、家内には見られている自覚があった。顔の見えない相手を数えることと、目の前の一人を観察することは、同じではありませんね。
進行
収束点をひとことずつ。
ニール・マッケルロイ
ツールではなく、責任の線を引くこと。
セオドア・レビット
定義から始めること。顧客の課題の定義から。
盛田昭夫
意見でなく行動を見ること。ただし、見えていない範囲を忘れないこと。
エスター・ピーターソン
そして、数えられる側にも人格があると考えること。
結び
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本連載は、各氏の原著・公開されている理論解説に基づき、現代の経営課題に合わせて再構成した架空の対談コンテンツです。発言はGROWTH INTELLIGENCE編集部による創作を含みます。