
営業の残業が月20〜30時間。記事はこれを個人の問題ではなく業務設計の欠陥だと言い切る。では、どこから手をつけるのか。測ることから始めよと言う科学的管理法の提唱者、測る前に止まる状態を作れと返す生産方式の実装者、どこを測るかで結果が決まると指摘する制約理論の提唱者、そして道具に何を任せるかは人が決めると釘を刺すコンパイラの開発者。四人が動かすのは、業務そのものではなく業務を分ける線のほうです。
Cast
- テフレデリック・テイラー測定1856–1915。科学的管理法の提唱者。作業を測定し、標準を定め、計画は管理側が担うという考え方を体系化した。一方でその手法は測られる側の反発を招き、1911年8月にはワタータウン兵器廠でストライキが起きている。争点は賃金ではなく、断りなく背後から測られることだった。1915年の陸軍歳出法は政府兵器廠における時間研究と賞与給を禁じている。本対談では、その批判を本人に語らせる条件のもとで登場している。
- 大大野耐一自働化1912–1990。トヨタ自動車元副社長。ジャスト・イン・タイム、かんばん、そして自働化(にんべんのついた自動化)をトヨタ生産方式として現場に実装した。自働化とは「異常がわかる、異常で止まる、異常で止める」仕組みであり、人を機械の番人にしないための設計である。道具を入れる前に、おかしくなったら止まる状態を作る——この順序が彼の主張の中心にある。なお本対談では、営業に同じ理屈が通るとは限らないことを本人に語らせている。
- ゴエリヤフ・ゴールドラット制約1947–2011。物理学の博士号を持つ経営思想家で、制約理論(TOC)の提唱者。全体の処理能力を決めているのは最も弱い一箇所であり、そこ以外をいくら改善しても全体は速くならないと説いた。『ザ・ゴール』(1984)は小説の形をとりながら、この考え方を製造現場に広めている。「どう測るかを言ってくれれば、どう振る舞うかを言ってみせる」という一文は、測定が行動を決めてしまうことへの警告である。
- ホグレース・ホッパー抽象化1906–1992。米海軍軍人であり、初期のコンパイラを実装した計算機科学者。機械語で書けと言われていた作業を、英語に近い言葉で書けるようにした。所属部署は「自動プログラミング」と呼ばれていたが、本人はその呼称を嫌っている——コンパイラにも何をコンパイルするかは人が教えねばならず、自動ではなかったからである。なお「COBOLの母」という通称は主要設計者のジーン・サメット自身が否定しており、実態はCODASYL委員会の技術顧問にあたる。
実線の下線↗は元記事の該当箇所(別タブ)、点線の下線は下の「発言の背景にある出来事」へ移動します。
司会
営業部門の残業が月二十時間から三十時間、一般の約二倍だそうです。記事は「これは個人の問題ではなく業務設計の欠陥だ」と言い切っています。どこから手をつけるべきでしょう。
フレデリック・テイラー
測ることからです。報告書の作成に何分、資料を探すのに何分。記録を取らずに改善を語るのは、怠業の言い換えにすぎません。私は「これまでは人が第一だった。これからはシステムが第一でなければならない」と書きました。責任は働く者ではなく、標準を持たない管理の側にあります。
司会
ただ、あなたの現場では反発が起きた。
フレデリック・テイラー
一九一一年、兵器廠でストライキが起きました。賃金ではありません。断りなく背後からストップウォッチを当てられたことに鋳物工が席を立ち、一時間で全員が続いた。……私は銑鉄を運ぶ男について、知能は牛に近いほうがよい、という意味の文章を書いてもいます。それを書いた人間が「測れ」と言っている。そこは差し引いて聞いてください。
大野耐一
測るのは構わん。だが順序が違う。道具を入れる前に、おかしくなったら止まる状態を作る。止まらん工程をいくら速くしても、不良が増えるだけだ。人が動いていることと、働いていることは違う。書類を書いている間、営業は動いてはいるが、客の役には立っておらん。
エリヤフ・ゴールドラット
その「止まる場所」がどこか、が問題です。私は書きました——「どう測るかを言ってくれれば、どう振る舞うかを言ってみせる」。報告書の作成時間を測れば、報告書は速くなる。それで受注は増えますか。増えないなら、そこは制約ではない。制約でない工程をいくら改善しても、全体は一秒も速くなりません。
司会
では営業の制約はどこに。
エリヤフ・ゴールドラット
部門の外にあることが多い。見込み客が足りないのか、見積りの承認が止まっているのか。記事は四社の事例を営業部門の中で解いていますが、制約が管理部門の承認待ちにあるなら、営業がどれだけ速く報告書を書いても、待ち行列が延びるだけです。
グレース・ホッパー
道具の話をしておきます。私の部署は「自動プログラミング」と呼ばれていましたが、私はあの言葉が嫌いでした。「自動ではなかった」のです。コンパイラにも、何をコンパイルするかは人が教えねばならなかった。音声で記録を取るのも同じで、何を記録に残す価値があるかを決めるのは、やはり人です。
司会
抽象化すれば、中で何が起きているかは見えなくなりませんか。
グレース・ホッパー
なります。そこは正直に申し上げます。
大野耐一
だから自働化は、止まって中を見せる仕掛けなのだ。……もっとも、営業に同じ理屈が通るかは別だ。工程にはタクトが引ける。営業は引けん。良品か不良かが、その場で分からん。数か月あとに出る。止まる仕掛けの作りようがない場面がある。
司会
整理します。テイラーさんは「測れ」、大野さんは「測る前に止まるようにせよ」、ゴールドラットさんは「どこを測るかで結果が決まる」、ホッパーさんは「道具に何を任せるかは人が決める」。元記事の手順に当てはめれば、順に「付随業務の可視化」「自動化・削除・人間が担うの三分類」「部分最適に陥らないこと」「ツールを入れれば終わりではないこと」です。 ——ただ、こうして並べると、記事の三分類が仕分け作業には見えなくなります。自動化するか、なくすか、人が担うか。その線は、はじめから引かれているものではない。
大野耐一
そのとおりだ。動きと働きの境は、工程を変えれば動く。 いま付随業務と呼んでおるものの半分は、仕事のやり方がそう決まっておるから付随業務なのだ。
フレデリック・テイラー
私が測ったのも、分けるためではありません。測って初めて、どこに線を引けるかが分かる。 線が先にあって、それから測るのではない。
エリヤフ・ゴールドラット
その線を動かす場所も選べます。制約の上にある線だけが、動かすと全体に効く。 ほかの線をいくら動かしても、景色は変わりません。
グレース・ホッパー
機械に渡せる形に書き直せたものが、線の向こうへ行きます。渡せる形にする仕事そのものが、線を動かしているのです。
司会
記事は「ツールを入れれば終わりではない」と書いています。四人の話を聞くと、それはツールの前に設計が要るということではなく、ツールを入れること自体が線を動かす行為だ——だから、どこに線を引きたいのかを先に決めるほかない、ということになりそうです。
対談から読み解く、4つの軸
なぜこの四人だったのか。各人がどの論点を担っているかを、人選の設計とあわせて示します。
フレデリック・テイラー:測定
「測ってから語れ」の原型であり、同時にその加害性を自ら背負う
理論: 課業管理と時間研究。標準を持たない管理の側に責任があるとした
大野耐一:自働化
「非効率なプロセスをそのまま自動化する失敗」は、自動化と自働化の区別と正面から対応する
理論: 自働化——異常がわかる、異常で止まる、異常で止める。人を機械の番人にしない
エリヤフ・ゴールドラット:制約
「局所の効率を上げても全体は速くならない」の原典。制約が部門の外にある可能性を突ける
理論: 制約理論(TOC)。制約でない工程をいくら改善しても、全体は一秒も速くならない
グレース・ホッパー:抽象化
記録という人の作業を機械に渡した当事者。「自動プログラミング」という呼称を本人が嫌っていた
理論: 抽象化——英語に近い言葉で書いたものを、機械語へ翻訳させる
三分類は仕分け作業ではなく、線そのものを動かす設計行為だった
収束点——テイラーは「測れ」、大野は「測る前に止まるようにせよ」、ゴールドラットは「どこを測るかで結果が決まる」、ホッパーは「道具に何を任せるかは人が決める」。記事の手順に当てはめれば、付随業務の可視化/自動化・削除・人間が担うの三分類/部分最適に陥らないこと/ツールを入れれば終わりではないこと、にあたる。 言い直し——並べてみると、記事の三分類は仕分け作業には見えなくなる。何を自動化し、何をなくし、何に人が集中するか。その線ははじめから引かれているものではなく、工程を変えれば動く。いま付随業務と呼ばれているものの半分は、仕事のやり方がそう決まっているから付随業務なのである。記事の「ツールを入れれば終わりではない」は、ツールの前に設計が要るという意味ではなく、ツールを入れること自体が線を動かす行為だということになる。 残った対立——標準を書くのは管理者か現場か(テイラー 対 大野)、局所の効率追求そのものをどう見るか(テイラー 対 ゴールドラット)、平準化でバランスさせるか「バランスさせるな」と考えるか(大野 対 ゴールドラット)。さらに大野自身が、営業には工程のようなタクトが引けず、良品か不良かがその場で分からないため、止まる仕掛けの作りようがない場面があると認めている。
学びの読書案内
フレデリック・テイラー
課業管理と時間研究。標準を持たない管理の側に責任があるとした
『科学的管理法の原理』(1911)
大野耐一
自働化——異常がわかる、異常で止まる、異常で止める。人を機械の番人にしない
『トヨタ生産方式——脱規模の経営をめざして』(1978)
エリヤフ・ゴールドラット
制約理論(TOC)。制約でない工程をいくら改善しても、全体は一秒も速くならない
『ザ・ゴール』(1984、小説形式)/『ザ・ゴール2』/『クリティカルチェーン』
グレース・ホッパー
抽象化——英語に近い言葉で書いたものを、機械語へ翻訳させる
A-0 system(1952)/FLOW-MATIC/COBOLの成立への寄与
発言の背景にある出来事
フレデリック・テイラー
「一九一一年、兵器廠でストライキが起きました」
ワタータウン兵器廠のストライキ(1911年8月11日)
テイラーの手法が政府の兵器廠に持ち込まれたとき、現場が拒んだのは賃金ではなかった。鋳物工のジョセフ・クーニーが、断りなく背後からストップウォッチを当てられたことに抗議して席を立ち、1時間以内に全員が続いた。翌年には下院の特別委員会が設けられ、1915年の陸軍歳出法によって政府兵器廠での時間研究と賞与給は禁止される。測ること自体が悪いのではない。誰が、誰に断って、何のために測るのかが抜けたまま導入されたことが問題だった。営業の付随業務を可視化しようとする施策が現場に受け取られ方で失敗するのは、今も同じ構造である。
大野耐一
「おかしくなったら止まる状態を作る」
自動化と「自働化」——にんべんの有無
機械が勝手に動くことを自動化と呼ぶが、大野が現場に入れたのは、異常があれば機械が自分で止まる仕組みだった。止まらない機械は、不良品を高速に作り続ける。だから人が横について見張ることになり、機械を入れたのに人が減らない。止まる仕掛けを付けて初めて、人は機械から離れられる。トヨタはこれを「異常がわかる、異常で止まる、異常で止める」と定式化し、自動化と区別して自働化と書いた。ツールを被せる前にプロセスを再設計せよという記事の指摘は、この順序と同じことを言っている。
エリヤフ・ゴールドラット
「どう測るかを言ってくれれば、どう振る舞うかを言ってみせる」
測定が行動を決めてしまうという指摘
ゴールドラットが繰り返し述べたのは、評価指標が人の振る舞いを作るということだった。報告書の作成時間を測れば、報告書は速くなる。速くなった分だけ受注が増えるとは限らないのに、測られた側はそこを改善する。制約でない工程の改善は、全体の処理量を1秒も増やさないまま、現場の努力と予算だけを吸い上げる。だから最初にやるべきは、どこが全体を縛っているかの特定であって、測りやすいところから測ることではない。記事が挙げる失敗②「部分最適」は、指標の置き場所を誤ることとほぼ同義である。
グレース・ホッパー
「私はあの言葉が嫌いでした」
「自動プログラミング」という呼称への異議
ホッパーの部署は Automatic Programming(自動プログラミング)と呼ばれていた。本人はその名を嫌っている。1980年収録のオーラルヒストリーで彼女はこう述べた——コンパイラにも何をコンパイルするかは教えねばならなかった、自動ではなかった、と。抽象化とは、人の判断を消すことではなく、判断の置き場所を上へ移すことである。何を記録に残す価値があるかを決めるのは、音声認識を入れたあとも人のままだ。記事の失敗①「ツールを入れれば改革が完了する」は、この置き換えの誤解をそのまま言い表している。
本連載は、各氏の原著・公開されている理論解説に基づき、現代の経営課題に合わせて再構成した架空の対談コンテンツです。発言はGROWTH INTELLIGENCE編集部による創作を含みます。
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