GGROWTH INTELLIGENCE経営に、次の一手を。

vol.39

経営基盤/業務改革2026.11.02約4分

機械を速くしても、なぜ納期は縮まないのか

待ちは、誰の持ち場でもない所に溜まる

アルフレッド・チャンドラー × 伊藤雅俊 × サム・ウォルトン

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加工機を最新型に替え、設備の稼働率も上がった。それでも、受注から出荷までの日数も、工場に積まれた作りかけの品の量も変わらない。元記事は、製品が工場にいる時間の多くが工程と工程の間の「待ち」であることを示し、次の投資先は待ちが「どこで」「なぜ」生じているかを測ってから決めるよう説きます。今夜の三人は、工程の間を担う手が近代企業を生んだと論じた経営史家、注文の3割が店に届かないことに誰も気づかなかった会社の創業者、そして店と取引先の間の補充に持ち主を置いた小売の創業者です。なぜ待ちは放っておかれるのかを、三つの経験から考えます。

今宵の賢人たち

  • チアルフレッド・チャンドラー流れを担う手1918–2007。米国の経営史家(ハーバード・ビジネス・スクール)。鉄道や製造業の一次資料から、近代企業がどう生まれたかを描いた。
  • 伊伊藤雅俊誰も気づかなかった欠品1924–2023。イトーヨーカ堂の創業者。洋品店「羊華堂」を総合スーパーに育て、セブン-イレブンの日本導入を承認した。
  • ウサム・ウォルトン間に持ち主を置く1918–1992。ウォルマートの創業者。1962年に1号店を開き、物流と情報への投資で米国最大の小売チェーンに育てた。

対談本編

実線の下線↗は元記事の該当箇所(別タブ)、点線の下線は下の「発言の背景にある出来事」へ移動します。

司会

今日の題材は「主工程を自動化しても工場が速くなるとは限らない」という記事です。加工機を新しくしても、受注から出荷までの日数が縮まないことがある。製品が工場にいる時間の多くは、工程と工程の間の待ちだからです。記事は、待ちが生じる場所と原因を測ってから、投資先を決めるよう説きます。まずチャンドラーさん、工場の速さは何で決まるのでしょうか。

アルフレッド・チャンドラー

私は19世紀の米国の鉄道や製鉄所を調べました。費用を下げたのは工場の大きさではなく、物が工場を通り抜ける速さでした。その速さを決めたのは、作業を細かく分けることより、工程の間の流れをまとめて調整できるかどうかです。調整を市場に任せず、専任の管理者に担わせたとき、近代企業が生まれました。私はそれを「見える手」と呼びました。

司会

工程の間の流れには、それを担う人が要る、ということですね。では、担う人がいないと、間では何が起きるのでしょうか。伊藤さん。

伊藤雅俊

1981年、減益が見えて、私は社内に荒天に備えよと号令をかけました。品目を一つずつ数えてみると、衣料では注文した品のおよそ3割が店に届いていなかった。それまで誰も気づかなかったのです。取引先と店の間の約束が守られなくても、誰の責任なのかがはっきりしていませんでした。

司会

間で起きていることは、誰の持ち場でもないから見えなかったのですね。では、間に持ち主を置くとは、どういうことでしょうか。ウォルトンさん。

サム・ウォルトン

私は1971年に最初の物流センターを建て、店はそこから日帰りで届く範囲に出しました。1987年には衛星回線で全店を結び、売れ行きを毎日集められるようにしました。1991年からは、店ごとの売れ行きを主な取引先に見せ、補充の責任を取引先の側に持ってもらいました。店と取引先の間に、はっきりした持ち主を置いたのです。もっとも、取引先に厳しい値下げを求め続けた、という批判も受けています。

司会

三人の話をまとめます。チャンドラーさんは、速さが工程の中ではなく工程の間の流れで決まり、その流れには担う人が要ると示しました。伊藤さんは、担う人のいない間では、3割の未納にさえ誰も気づかなかったと話しました。ウォルトンさんは、売れ行きを毎日集めて取引先に見せ、店と取引先の間の補充に持ち主を置きました。設備の稼働率は、その設備の担当者が測って報告します。工程と工程の間の待ちには、測って報告する担当がいません。だから投資は、測られている持ち場に向かいやすいのです。記事が待ちの場所と原因を先に測るよう説くのは、測ることが、誰の持ち場でもない間に初めて持ち主を置くことだからです。

対談から読み解く、3つの軸

なぜこの四人だったのか。各人がどの論点を担っているかを、人選の設計とあわせて示します。

  • アルフレッド・チャンドラー:流れを担う手

    記事の「工程の間を改善せよ」に、速さは流れを担う専任の管理者がいて初めて出る、という歴史の裏づけを足す役です。

    理論: 『The Visible Hand』(1977)の「速度の経済」と「見える手」

  • 伊藤雅俊:誰も気づかなかった欠品

    記事の「待ちの場所を測れ」に、担う人のいない間では、問題が起きていても誰も気づかないという経験を足す役です。

    理論: イトーヨーカ堂の業務改革(1982〜)の起点となった「荒天準備」の号令

  • サム・ウォルトン:間に持ち主を置く

    記事の「同期・データ連携」に、店と取引先の間の補充を誰の持ち場にするかを決めた実例を足す役です。

    理論: 物流センター(1971)・全店の衛星通信網(1987)・Retail Link(1991)

待ちは、誰の持ち場でもない所に溜まる

設備の稼働率には、それを測って報告する担当者がいます。一方、工程と工程の間で製品が待っている時間には、たいてい担当者がいません。測られていないものは、投資の判断に上がってきません。そのため、改善の投資は測られている設備に向かいやすく、工場全体の速さを決める工程の間は手つかずのまま残ります。待ちの場所と原因を測ることは、その間に初めて持ち主を置く作業です。

「機械を速くしても、なぜ納期は縮まないの?」に、ひよっこ課長の質問と図・3つのポイント・答えで答える1枚のスライド
ひよっこ課長の超かんたんレポート

学びの読書案内

  • アルフレッド・チャンドラー

    『The Visible Hand』(1977)の「速度の経済」と「見える手」

    The Visible Hand(1977)

    著作・資料を探す ↗

  • 伊藤雅俊

    イトーヨーカ堂の業務改革(1982〜)の起点となった「荒天準備」の号令

    邊見敏江「イトーヨーカ堂の『業務改革』」(2007)

    著作・資料を探す ↗

  • サム・ウォルトン

    物流センター(1971)・全店の衛星通信網(1987)・Retail Link(1991)

    Sam Walton: Made in America(1992)

    著作・資料を探す ↗

発言の背景にある出来事

  • アルフレッド・チャンドラー

    「私はそれを「見える手」と呼びました」

    『The Visible Hand』(1977)

    アダム・スミスの「見えざる手」をもじった書名です。チャンドラーは鉄道を米国で最初の近代企業と位置づけ、部門から部門への物の流れを専任の管理者が調整したことで近代企業が成り立ったと論じました。費用を下げたのは規模より、物が通り抜ける速さだったと書いています。

    ↑ 本文の発言に戻るWikipedia(英語)「Alfred D. Chandler Jr.」 ↗

  • 伊藤雅俊

    「衣料では注文した品のおよそ3割が店に届いていなかった」

    イトーヨーカ堂の業務改革(1982〜)

    1981年の減益見通しを受けて、伊藤社長が「荒天準備」の対策づくりを命じました。品目を一つずつ管理する単品管理を始めると、注文した品が届かない割合が衣料で30.2%、加工食品で29.3%あったことが分かりました。改革の会議を率いたのは鈴木敏文で、特別な推進組織を作らず日常業務として進めました。

    ↑ 本文の発言に戻るWikipedia「伊藤雅俊」 ↗

  • サム・ウォルトン

    「補充の責任を取引先の側に持ってもらいました」

    Retail Link(1991)

    1971年にアーカンソー州ベントンビルに最初の物流センターを開き、1987年には全店を音声とデータで結ぶ自社の衛星通信網を完成させました。1991年からは主要取引先に店ごとの販売実績を開示し、補充を供給側の責任にしました。取引先への値下げ圧力は、批判の的にもなりました。

    ↑ 本文の発言に戻るWikipedia「サム・ウォルトン」 ↗

本連載は、各氏の原著・公開されている理論解説に基づき、現代の経営課題に合わせて再構成した架空の対談コンテンツです。発言はGROWTH INTELLIGENCE編集部による創作を含みます。

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