
DXは「データを使いこなせる組織」なしに完成しない—データ駆動型経営を実現するための、データマネジメント入門
2026.07.09GROWTH INTELLIGENCE 編集部
1|結論—今すぐ取るべき経営判断
DXの本質は「データ駆動型経営の実践」にあります。しかし多くの企業は、紙のデジタル化・単純作業の自動化という「自動化」の域を出ておらず、本当のDXに到達できていません。データを経営資産として管理・活用する仕組みを組織に実装することが、DXを前進させる唯一の正解です。DXとは、単にレガシーなシステムを刷新・高度化することではありません。事業環境の変化に迅速に対応する能力を身につけ、企業文化(固定観念)を変革することです。経済産業省発行の「DXレポート2」が示すDXの方向性は3点です。「常に変化する顧客・社会の課題をとらえること」「素早く変革し続ける能力を身につけること」「ITシステムのみならず企業文化を変革すること」—これら3点に共通するのは、データを起点とした意思決定の仕組みを持つことです。デジタル化には「Digitization(デジタイゼーション:単なるデジタル化)」と「Digitalization(デジタライゼーション:デジタルを活用したビジネスモデルの変革)」の2段階があります。多くの中小企業が前者に留まっている現実があります。後者を実現するには、自社業務の効率化に留まらず、顧客のニーズ・シーズを理解した上でビジネスモデルを変革することが求められます。その出発点が、データを正しく扱う組織の構築です。2|なぜデータマネジメントがDXの土台なのか—構造的な理由
▶ DXの本質は「データ駆動型経営」への転換 データ駆動型経営とは、データに基づいて現実世界を把握し、インサイト(顧客の要望・不満・顧客自身がまだ気づいていない隠れた気持ち)を発見し、意思決定を行うビジネスモデルです。DX以前は、自社業務の経験や勘で「顧客が求めているだろう」と想定されるものを開発・販売していました。DX以降は、「顧客自身が発するデータ」を分析することでインサイトを発見し、顧客が真に必要とするサービスを開発・提供するビジネスへと変化しています。この転換を実現するには、データを収集・管理・活用できる組織体制が不可欠です。スマートフォンの普及以降、現場の生データをリアルタイムで収集しビジネスに活用できる環境が整いました。この機会を生かせるかどうかは、データマネジメントの有無にかかっています。DXの実践には3点の組織文化の醸成が不可欠です。「デジタル技術の導入」「デジタル技術を維持・活用する人材の育成」「デジタル技術の活用」—この3点を推進するための基盤となるのが、データマネジメントです。▶ データは「資産」にも「負債」にもなる ビジネスで扱うデータは「写像(事実・実際に起こったこと)」「集計(現在までの傾向)」「推測(将来の予測)」の3種類です。これらは企業にとって「ヒト・モノ・カネ」と同様に扱うべき資産です。しかし、管理を怠れば資産ではなく負債に転落します。腐るデータ—「ダークデータ」—とは、何らかのビジネス施策を実現するために存在するものの、「誰が」「どのような目的で」使っているか分からない状態となり、廃棄してよいか判断できずに残しているデータです。「目的を持たずに収集したデータ」も含まれます。このダークデータはストレージを圧迫し無駄なコストを発生させているにもかかわらず、多くの企業では廃棄できずに蓄積し続けています。近年の企業では、ダークデータの増加により「欲しいデータが見つからない」「データ活用促進の足枷になる」という事象が多発しています。宝のデータとは、データ活用者全員がノウハウを共有できる「ナレッジがあるデータ」です。アウトプットをイメージした上で収集したデータであれば、「どこの資料のどの部分に誰が使用したデータか」を明確にできるため、廃棄判断も容易になり、ダークデータを生み出さずに済みます。
3|コニカミノルタの事例—データマネジメントが生んだ数字
コニカミノルタ株式会社は、世界約150カ国にセールス・サービス体制を整え、世界中に約200万社の顧客企業を抱えるグローバル企業です。複合機関連製品・デジタル印刷・ヘルスケア・インダストリー関係と幅広い事業を手掛けているため、扱うデータは「過去の財務・内訳を要因関係書類・プリントボリューム・機器のメンテナンスにより発生する資材・部品コスト・カスタマーエンジニアの活動に関わるコスト」と多岐にわたっていました。データは膨大に膨れ上がり、必要なデータか廃棄可能なデータかの分別がつかない状態が続いていました。また、管理方法は各担当者の裁量に任せきりの属人化状態となっており、業務領域の拡大を考えたときの管理と活用に課題を抱えていました。そこで、サービス運用の「管理ルール」を策定し、「抑えるポイント」に注力した管理の簡略化を実施しました。さらに、報告内容が類似するレポートを標準化された形式に「基本要約」として準備する体制を整えました。結果、データ収集に17.6時間かかっていたレポートの作成時間を8.1時間へと半分以下に削減。さらに、分析に必要なデータがあらかじめ用意されたことで、特定の担当者に頼ることなく分析依頼ができるようになり、属人化も解消しました。これは「管理ルールの整備」という、テクノロジー投資ではなく組織設計の変革によって得られた成果です。4|実行のポイント—データマネジメント組織を作る8原則
▶ 原則1:データを資産として扱う 資産とは「価値を生み出す潜在的な能力を持っている経営資源」です。データは「ヒトが分析」して初めてインサイトを得ることができます。資産として機能させるには、データを生み出した責任者(所有者)を明らかにし、価値を保ち向上させるようにマネジメントする責任体制が必要です。このマネジメントができていなければ、データは「価値の保証がされていない値の羅列」に過ぎず、場合によってはダークデータという負債になります。 ▶ 原則2:ガバナンスとマネジメントを分離する データガバナンスは「統治するためのフレームワークを定めること」であり、データマネジメントは「現場で日々発生するデータを管理すること」です。ガバナンスはEDM(評価・方向付け・モニタリング)を経営視点で循環させ、マネジメントはPDCAを現場視点で循環させます。この2つを独立させ循環させることで、組織全体にデータ駆動の文化が醸成されます。 ▶ 原則3:全体最適を優先させる データマネジメント施策の優先順位は「全体最適」に関するものを最優先とします。全体最適とは、類似データをなくし、データ連携が整流・清流化されるようにデータアーキテクチャをデザインすることです。初期段階でこの設計ができれば、全社レベルで守るべき事項とルールが策定でき、その後の活動がスムーズになります。 ▶ 原則4:データは全社的ケイパビリティと認識する データマネジメントは、財務・人事・商品開発・営業・マーケティング・ITと同じように、経営活動で滞りなく機能させなければならない全社的ケイパビリティです。データ活用とデータマネジメントはワンセットであり、各部門がスムーズに高品質なデータを活用できる環境を整えることが求められます。 ▶ 原則5:強いリーダーシップを確立する データガバナンスは業務横断的な活動です。企業全体に影響を与えられる役員クラス—チーフデータオフィサー(CDO)に相当する権限を持つ人物—をアサインすることが望ましいです。リーダーはビジョン・ミッション・ゴールなど未来のイメージを語り、行動で示すことが求められます。メンバーはリーダーのビヘイビア(態度・行動)を見て育ちます。 ▶ 原則6:個別プロジェクトで終わらないプログラムとする データマネジメントは、一定期間で終了するプロジェクトではなく、永続的に行われる活動です。従来は個別プロジェクト内で行われ、プロジェクト終了とともにチームが解散していたため、設計・標準化の目的が浸透せず、継続的な管理が行われにくい構造でした。プロジェクトとは独立したプログラムとして、組織に根付かせることが必要です。 ▶ 原則7:対象領域を絞ったスモールスタートで始める 最初から全領域を対象にすると、やることの多さに圧倒され頓挫します。まずは短期的に効果を得やすい「マーケティング」関連に絞り、顧客データの結合・商品データの統合・法規制対応から着手することが推奨されます。成功体験を作ることでビジネスサイドの理解が深まり、横展開がしやすくなります。「仕組みを作ること」がスモールスタートの狙いです。 ▶ 原則8:データマネジメント活動もサービスとして考える データマネジメントの目的は「ビジネスサイドに良質なデータを提供すること」です。サービス提供の視点として4点が重要です。「ビジネスサイドが解決したい課題は何か」「課題解決に必要なデータは何か」「そのデータをどのように提供するか」「ビジネスサイドが気づいていないデータ要件の仮説を考えたか」——この4点を常に問い続けることが、データマネジメントを機能させる鍵です。5|よくある誤解—DX推進企業がはまりやすい罠
誤解① 「紙のデジタル化・業務自動化=DXが進んでいる」 これは「Digitization(デジタイゼーション)」の段階に過ぎません。DXが目指すのは「Digitalization(デジタライゼーション)」——デジタルを活用してビジネスモデルを変革することです。自動化・ペーパーレス化で満足している企業は、DXの入口にすら立っていない可能性があります。誤解② 「データさえ集めれば活用できる」 目的のないデータ収集はダークデータを生み出し、ストレージコストを圧迫し、必要なデータを探しにくくします。収集前に「アウトプットイメージ」を持つことが不可欠です。データ活用で何を実現したいかを先に定義し、そこから逆算してデータを収集・管理する設計が、宝のデータを生み出す唯一の方法です。
誤解③ 「データマネジメントは情報システム部門の仕事だ」 データマネジメントは全社的なケイパビリティです。IT部門だけに任せることは、原則4「全社的ケイパビリティ」に真っ向から反します。財務・人事・営業・マーケティングと同列に経営活動に組み込まれるべき機能であり、経営トップが自ら変革を主導しなければ、組織文化として根付かせることはできません。
6|経営判断チェックリスト—今やるべきか否かの判断軸
▶ この戦略が有効な企業の条件 ✓ 「DXを進めている」と言いながら、主に業務自動化・ペーパーレス化に取り組んでいる ✓ データは蓄積されているが、どこに何があるか社内で把握できていない ✓ 分析レポートの作成に多くの時間がかかっており、特定の担当者に依存している ✓ データ管理のルールが属人化しており、担当者が変わると引き継げない ✓ DXの成果が出ていないが、その原因がデータにあるとは認識していない▶ 今やるべきかの判断軸 データ駆動型経営への転換は、競合他社との差別化を生む要素として既に機能し始めています。コニカミノルタの事例が示すように、データマネジメントの整備によってレポート作成時間を半分以下に削減し、属人化を解消するという成果は、テクノロジー投資なしに組織設計の変革だけで実現できます。「いずれ対応する」という先送りは、競合との格差を毎月拡大させることと同義です。
▶ やらない場合のリスク データマネジメントを持たない企業が直面するリスクは構造的です。 第一に、ダークデータの蓄積によるコスト増大と意思決定の遅延 第二に、データ活用の属人化による組織の脆弱性 第三に、顧客インサイトに基づかない「経験と勘」による意思決定の継続による市場対応力の低下 DXを推進する競合企業がデータ活用で顧客理解を深める中、データマネジメントを持たない企業の競争力は相対的に低下し続けます。