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「タテ割りの適応力」を「連邦型の競争力」へ— CEIエコシステムが拓く日本企業の新市場戦略

2026.08.04GROWTH INTELLIGENCE 編集部

IoT機器の爆発的増加、5Gの普及、AIの進展によって、データ処理の前提が変わり始めています。従来の「クラウドに集めて処理する」モデルは、通信帯域の逼迫やデータセンターの電力消費増大といった物理的制約に直面し、持続性に限界が見えています。 そこで注目されているのが、Cloud・Edge・IoTを一体で設計する“CEI(Cloud-Edge-IoT連続体)”です。すべてをクラウドへ送るのではなく、データの発生源に近いエッジで処理し、必要な情報だけを連携させる分散型アーキテクチャへ重心が移っており、欧州では政策レベルでCEI連携が推進され、環境負荷の低減と経済合理性の両立を狙う動きが加速しています。 本稿では、CEIエコシステムが求められる背景・構造的特徴・欧州のHorizon Europeにおけるプロジェクト動向・ビジネスへの具体的影響、そして日本企業の参画事例と戦略的展望を、新市場開拓・技術投資を検討する経営者・事業開発責任者の判断材料として整理します。

1|結論—今すぐ取るべき経営判旗

Edge AIソリューション市場は2024年度15,100百万円から年平均成長率(CAGR)18.1%で拡大が見込まれる有望領域です。CEI(Cloud-Edge-IoT)エコシステムとは、Cloud・Edge・IoT機器を一体的に制御・連携するアーキテクチャの総体であり、欧州が「データ主権」「環境性能」を軸に政策レベルで強力に推進しています。日本の製造業は系列ごとの垂直統合モデル(タテ割り構造)によりデータがサイロ化していますが、CEIが目指す「分散型・連邦型モデル」は現場の主権を守りたい日本企業のメンタリティと親和性が高い仕組みです。NEC・富士通・明治大学・電気通信大学は既にHorizon Europeに参画しており、日本企業がこのエコシステムの不可欠なピースになり得ることを証明しています。

IoT機器の爆発的増加・5Gの普及・AIの飛躍的進展により、デジタル社会のインフラ構造は大きな転換点を迎えています。

2|なぜ今 CEIなのか—データ需要の急增と既存モデルの限界

CEIという概念がこれほどまでに関心を集めている最大の理由は、データ需要の爆発的な急増にあります。スマートシティ・自動運転・インダストリー4.0など、現代の先端サービスは膨大なデータを生成し続けます。これら全てをCloudに転送して処理することは、通信遅延・セキュリティ・コストの観点から現実的ではなくなりつつあります。センサデバイスの小型化・省電力化が進み、現場でリアルタイムに推論を行うEdge AIが実用段階に入ったことで、データ処理の重心はCloud中心からEdge側へと急速にシフトしています。

▶ 断片化と標準化の欠如という課題 現状ではCloudベンダー・通信事業者・デバイスメーカーがそれぞれ独自の規格やプラットフォームを展開しているためデータの断片化が生じています。また、EdgeとCloudを跨ぐ際のセキュリティポリシーの違いや、相互運用性を保証する標準化不足も深刻な課題です。こうした課題に対し、欧州は「データ戦略」や「Gaia-X」に代表される「データスペース戦略」を打ち出し、特定のプラットフォーマーに依存せず企業間・組織間で安全にデータを共有・活用できる基盤の構築を図っています。

3|CEIエコシステムの構造的特徴—欧州が主導する設計思想

CEIエコシステムとは、Cloud・Edge・IoT機器を個別の要素としてではなく一体的に制御・連携するアーキテクチャの総体を指します。最上位には大規模な計算資源を持つCloudが存在し、インターネットを経由して物理世界に近い場所に位置するEdge NodeやEdge Networkと繋がっており、Edge Node同士も相互に連携しCloudとEdgeが補完し合いながらデータを処理する仕組みです。

欧州におけるCEIの設計思想には2つの特徴があります。第一にデータ主権の確保で、Edgeコンピューティングを活用し機微なデータをEU域内や特定組織内で処理し域外への流出を防ぐ域内完結型の仕組みが求められています。第二に環境性能の追求で、データセンターへの過度な集中を避け処理を分散させることでエネルギー効率を高めカーボンフットプリントの削減を図る設計が必須とされています。現在では「Gaia-X」のような連邦型データインフラを活用し、企業間で安全にデータを共有・連携するデータスペースの概念がCEIアーキテクチャに統合されつつあり、Edge AIによる現場での即時判断とCloud上の分散AIによる高度な全体解析を組み合わせたハイブリッドな活用が可能となっています。

このような分散環境において最も重視されるのがセキュリティです。データがあらゆる場所に分散するため従来の境界防御型セキュリティでは不十分となり、分散環境全体での安全性確保やデータガバナンスの強化が重要視されています。日本のIPA(独立行政法人情報処理推進機構)も、データ主権やセキュリティ標準化の推進を日本企業がグローバル競争力を維持するための必須策として挙げています。

4|Horizon Europeにおける主要プロジェクト動向

▶ UNLOCK-CEI:需要主導型アプローチで市場受容性を高める 技術主導で進みがちなCEI開発に対し、調整・支援アクションとして需要側の視点に立つプロジェクトです。CEI技術を導入しようとする企業が自身の成熟度を客観的に測るためのCEI準備枠組みを開発・提供し、航空宇宙・農業・物流・ヘルスケアといった多様な産業分野で具体的なユースケースの創出を支援しています。

▶ Nexus Forum:研究革新を統合する司令塔 多数のプロジェクトが乱立することで生じるCEIエコシステムの断片化を防ぎ、欧州全体の研究革新を統合するための調整中枢として機能しています。学術界と産業界の専門家を結集し欧州委員会に戦略的ロードマップを提言しており、日本の明治大学が参画することで日欧間の研究協力や倫理面・データ主権に関する議論をリードしています。

▶ O-CEI:集合知性による資源最適化 Continental・Schneider Electricといった欧州大手企業に加え、NEC Laboratories Europe(NECの欧州研究所)が参画する野心的なプロジェクトです。分散したデバイスが自律的に連携しシステム全体の資源消費を最適化するアーキテクチャの実証を行い、スマートシティやエネルギー管理システムにおける分散型エネルギー資源の制御、コネクテッドカーのリアルタイム処理において環境負荷を低減する技術を開発しています。

その他にも、CloudからEdge・IoTに至る複雑な計算資源を抽象化する「NEPHELE」、Cloud・Edge・HPCのリソースを透過的に連携させる「SERRANO」など、多数のプロジェクトが相互に連携しながら欧州全体のデジタル戦略を支えています。

5|CEIがビジネスにもたらす具体的影響

製造業ではEdge AIによるリアルタイム品質検査や稼働監視が可能となり、従来のCloud処理で発生していた遅延を解消し瞬時の判断・予知保全による効率向上・コスト削減が期待されます。EUでは「Gaia-X」上のCatena-X自動車ネットワークを通じた製造業のデータ流通・トレーサビリティ向上が推進され、部品ごとのカーボンフットプリントの追跡や品質問題発生時の迅速な特定が可能となっています。

モビリティ分野では車載IoTと路側センサのEdge処理を組み合わせ高速道路での自動運転支援や交通制御が高度化し、エネルギー分野ではスマートグリッドの電力需要制御や再生可能エネルギーの出力予測にCEIが活用され電力網全体の安定化と脱炭素化を支えます。遠隔手術支援が期待される医療分野、スマート農業、スマートシティなど全業界でCEIは新たなサービス創出と市場拡大を促進するビジネス機会となり得ます。

6|日本企業のHorizon Europe参画事例—技術力への欧州からの期待

これらの具体的な参画事例は、日本企業の技術力に対する欧州からの期待の表れと言えます。「Horizon Europe」における海外企業の受入方針においても、専門知識や施設が不可欠である場合や国際協力戦略の一環として参加が推奨されている場合には、日本企業の参画や資金提供を受けることが可能となっています。

7|CEI参入の落とし穴—経営者が降りやすい典型的誤解

誤解① 「CEIは欧州の政策トレンドであり日本企業には関係ない」という他人事化 CEIの本質は「現場での高度な処理」にあり、日本が長年蓄積してきた製造業現場のロボット技術・現場の改善力(現場力)と高い親和性を持ちます。NEC・富士通・明治大学・電気通信大学は既にHorizon Europeへ積極的に参画しており、「欧州の話」として静観すること自体が国際的なポジション構築の機会損失になります。

誤解② 「全てのデータをCloudに集約すれば最適化できる」という旧来モデルへの固執 スマートシティ・自動運転・インダストリー4.0が生成する膨大なデータを全てCloudに転送して処理することは、通信遅延・セキュリティ・コストの観点からもはや現実的ではありません。Edge AIの実用化により、データ処理の重心はCloud中心からEdge側へと急速にシフトしている構造変化を踏まえた設計が必要です。

誤解③ 「データのタテ割り構造は日本企業の弱みでしかない」という単純な悲観 日本の製造業は長年企業ごと・系列ごとの垂直統合モデルで高度に最適化されてきましたが、これがデータのサイロ化という足枷になっているのは事実です。しかし、CEIが目指す分散型アーキテクチャは全データを巨大Cloudに吸い上げる中央集権型ではなく、各現場の自律性を保ちながら必要なデータだけを安全に連携させる連邦型モデルです。「現場の主権を守りたい」という日本企業のメンタリティとはむしろ親和性が高く、弱みを強みに転換できる可能性があります。

誤解④ 「ハイパースケーラーとの協業は自社の独自性を失う」という対立構造の誤解 AmazonやMicrosoftなどの巨大Cloud基盤を活用することと、現場に近い領域で日本独自の強みを発揮することは対立する選択肢ではありません。ハイパースケーラーとの協業と独自性の両立という棲み分け戦略が、日本企業がとるべき現実的な道筋です。

8|実行のポイント—日本企業がとるべき戦略的ステップ

STEP 1 ハイパースケーラーとの協業と独自性の棲すみ位置を設計する

Amazon・Microsoftなどの巨大Cloud基盤を活用しつつ、現場に近い領域では日本独自の強み(省エネ技術・現場の改善力)を発揮する棲み分け戦略を設計してください。全てを自社で抱え込む必要はなく、どの層を協業し、どの層を自社の競争優位として残すかを明確に定義することが起点です。

STEP 2 データ主権の確立とセキュリティ強化を優先する

欧州の動きと同様、国内でもデータの安全性と主権確保は必須です。従来の境界防御型セキュリティでは分散環境に対応できないため、分散環境全体での安全性確保やデータガバナンスの強化を、IPAが示す標準化動向に沿って進めてください。

STEP 3 官民連携によるデータ共通基盤の構築に参画する

経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」で指摘するように、産業全体の競争力を高めるには個社ごとの取り組みを超えたデジタルインフラの整備とデータ連携が不可欠です。CEIという技術的な共通言語を用いて、従来の硬直的なタテ割り構造を打破し企業や業界の枠を超えてリソースを最適化する官民連携モデルへの参画を検討してください。

STEP 4 Horizon Europe等の国際プロジェクトへの参画を検討する

NEC・富士通・明治大学・電気通信大学の先行事例が示すように、専門知識や施設が不可欠な場合・国際協力戦略の一環として推奨される場合には日本企業の参画や資金提供を受けることが可能です。自社の技術領域がどのCEIプロジェクト(UNLOCK-CEI・O-CEI・SERRANOなど)と親和性が高いかを評価し、参画の可能性を探ってください。

9|経営判旗チェックリスト—CEI参入を検討すべき企業の条件

✓ 製造現場・モビリティ・エネルギーなどでリアルタイムデータ処理のニーズが高まっている ✓ Cloud集中処理の限界(通信遅延・コスト・セキュリティ)に課題を感じている ✓ 系列・社内のデータがサイロ化しており、企業や業界を跨いだ連携ができていない ✓ 自社のEdge処理・省エネ・現場改善のノウハウを国際的な技術エコシステムで活かしたい ✓ ハイパースケーラーへの依存と自社の独自性確保のバランスが取れていない

CEIエコシステムは単なる技術トレンドではなく、日本の産業構造をアップデートするための強力な触媒です。欧州においては環境負荷低減やデータ主権の確立という文脈で語られてきましたが、日本においては現場力は高いが横の連携が弱いという長年の課題を解決する切り札となり得ます。分散していながら繋がっているというCEIの特性は、日本の産業界が目指すべき姿そのものです。政府によるインフラ支援と民間企業の現場技術がCEIという基盤上で噛み合ったとき、日本は持続可能なデジタル社会のリーダーとして日本ならではの強みを生かした未来を切り拓くことができます。

10|経営者への一言

現場のデータを現場で守り、価値ある情報だけを社会全体で共有する。そのCEIの思想を実装し、現場重視の分散型社会という日本独自の勝ち筋を確立することが、デジタル敗戦論を払拭する道である。

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