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「データ連携できない企業は取引停止」—欧州電池規則が迫る 経営者が今動くべき理由

2026.07.09GROWTH INTELLIGENCE 編集部

データ活用が競争力を左右する時代に入り、企業は自社内データだけでなく、業界や異業種を横断したデータ連携をどう実現するかが問われています。しかし、プラットフォームに一元集約するモデルでは、データ主権や信頼性の確保といった課題が残ります。 欧州を中心に発展している「データスペース」という概念を取り上げ、自律分散型でデータ主権を保ちながら連携を実現する仕組みを解説します。GAFAM型の中央集権モデルとの違いや、信頼性確保の枠組み、日本における制度・実証動向などを整理し、なぜ今この構想が注目されているのかを明らかにします。 業界の壁を越えたデータ連携は、新たなサービス創出と産業競争力強化の鍵となります。本稿は、データスペースを単なる概念で終わらせず、企業戦略としてどう位置づけるかを考える視点を提示しています。

1|結論—データスペースへの対応は「やれればよいこと」から「やらないと取引停止」に変わった

2025年後半に発効予定の欧州電池規則により、EUの自動車電池に関わる部品・素材の製造からリサイクルまでの全ライフサイクルのCO2排出量(カーボンフットプリント)の完全なトレースが義務化されます。データを管理・提供できない企業が1社でも存在した場合、その企業はヨーロッパの自動車メーカーとの取引停止となる可能性があります。これは日本企業も例外ではなく、サプライチェーン上で欧州に関わる企業はすべて対象です。この義務化に対応するための技術的インフラが「データスペース」です。

Industry4.0・Society5.0という概念が普及する中、「データを活用した競争優位の構築」は多くの企業の経営課題です。しかし、自社データだけを活用するモデルには限界があり、他企業・異業種のデータと組み合わせたデータ戦略が競争力の源泉になっています。この「企業・業界の垣根を超えるデータ連携」を実現するための技術的インフラが「データスペース」であり、欧州では規制対応として既に実用化が進んでいます。

2|データスペースとは何か—GAFAMとの決定的な違い「自律分散型」

データスペースとはヨーロッパを中心として発達した概念であり、「国境や分野の壁を越えた新しい経済空間・社会活動の空間」のことを指します。より便利な社会を構築するためにデータを活用することを推進する基盤です。

▶ GAFAMなどのプラットフォームとの根本的な違い

「コネクタ」という仕組みをコンセントで理解する 電化製品のプラグ形状が統一されているため、どの製品でもコンセントに挿すだけで電気を得られます。データスペースの「コネクタ」も同様に、各企業がデータの形式をルールに合わせて整備すれば、業界を超えてどこの企業のデータとも接続・連携できる仕組みです。このコネクタを通じた「相互運用性」がデータスペースの最大の技術的特徴です。

3|データスペースの3つの特徴—「データ主権・公平性・相互運用性」

4|海外先進事例—Gaia-XとCatena-Xが示す「業界を超えたデータ連携の現実」

▶ Gaia-X—欧州データスペースの基盤組織(2019年設立) 2019年、ドイツ・フランスを中心にGaia-Xという組織が設立され、データスペースの本格的な運用に向けた基盤が構築されました。GAFAMのような巨大メガプラットフォームに対抗するために、EUという連合体が持つ「連携の力」を活用してデータ主権を守る、という発想のもとに生まれた取り組みです。

▶ Catena-X—自動車業界データ連携(2021年設立・商用サービス提供中) Gaia-Xの基盤システムを活用して2021年に設立されたCatena-Xは、自動車業界のデータ連携を行う組織です。様々なユースケースの実証実験を経て、すでに商用サービスの提供を開始しており、所定の費用を支払って登録した企業は他企業のデータと接続できます。 現時点では「自動車に使用する蓄電池のトレーサビリティデータ」の提供が可能です。今後この動きは他業種へと拡大しており、航空業界サプライチェーンをつなぐAerospace-Xなどの構築が進んでいます。各業界がそれぞれのデータスペースを構築し、やがて異業種間でも連携する—これがGaia-X設立時から目指されていた姿です。

欧州電池規則(2025年後半発効予定)が日本企業を直撃する理由 この規則は、自動車電池の部品1つ1つについて、製造からリサイクルまでの全ライフサイクルのCO2排出量(カーボンフットプリント)の完全なトレースを義務化します。「自分の企業は日本にあるからEUと関係ない」は通用しません。仮に欧州の自動車メーカーへのサプライチェーン上に1社でもデータ未管理の企業があれば、そのメーカー全体が出荷停止になるリスクがあるため、日本のサプライヤー・部品メーカーも対応を迫られます。

この規則は今後電池にとどまらず、他の製品にも順次適用されていく見込みです。言い換えれば、「データを管理・提供できない企業は、ヨーロッパやそれに関わる企業との取引ができなくなる可能性がある」という状況になりつつあります。データスペースへの対応が「十分条件」から「必要条件」に変化しています。

5|日本の動向—ウラノス・エコシステムと自治体の先行取り組み

▶ 自治体レベルの先行取り組み 大阪府では2022年度より府が主体となって市町村間のデータ連携の枠組みづくりを推進しています。自治体によってバラバラだったデータを共通IDをもとに連結することで業務改善を実現。大阪府のほか札幌市でも導入が進んでいます。

▶ 国主導の取り組み:ウラノス・エコシステム(2023年〜) 2023年、経済産業省主導で「ウラノス・エコシステム」という日本版データスペース基盤の構想が立ち上がりました。日本の各業界がデータ連携を行い、さらにそれらの垣根を超えた連携を経て、最終的には日本全体の業界横断型データスペースを構築し海外とも連携するという、官民一体の大型プロジェクトです。

▶ 欧州(Catena-X)との現状と将来の方向性 現時点では日本のウラノス・エコシステムが使用するコネクタ(CADDE)と欧州のCatena-Xのコネクタ(EDC)は異なるため、直接のデータ連携は困難です。しかし、データスペースの基本的な設計思想からは、将来的に両者および他のデータスペースを含めた多国間でのデータ連携が推進される方向に進むと考えられます。

日本企業にとっての現実的な含意 欧州はすでに商用サービスとして稼働中。日本は本格サービス提供段階には至っていませんが、欧州電池規則という「外圧」が日本のデータ整備を加速させています。「日本がまだ本格化していないから今はいい」という判断は誤りで、欧州サプライチェーンに関わる企業はすでに今から対応準備が必要です。

6|データスペースが企業経営にもたらす2つの側面—「守り」と「攻め」

データスペースへの対応は、規制対応という「守り」の側面だけでなく、競争優位の構築という「攻め」の側面も持っています。

「攻め」の側面で特に重要なのは、「自社のデータだけでは見えなかったことが、他社・異業種のデータと組み合わせることで見えるようになる」という点です。例えば製造業者が小売業の購買データと自社の生産量データを組み合わせることで、より精度の高い生産計画が立てられます。このような「データの掛け算」を可能にするインフラがデータスペースです。

7|経営判断チェックリスト—データスペースへの対応を今始めるべき企業の条件

✓ 自動車・電機・部品・素材など欧州の自動車メーカーやそのサプライチェーンに関わる製品・部品を製造・供給している ✓ 欧州電池規則(2025年後半発効予定)の適用対象となる可能性があり、サプライチェーン上のCO2データ管理の準備が不十分 ✓ 自社のデータ活用に限界を感じており、他業種・他企業のデータとの連携によって新たな事業機会を創出したい ✓ Catena-X(193社以上が参加)への参加または日本のウラノス・エコシステムへの接続を検討している ✓ サプライチェーン全体のデジタル化・トレーサビリティの整備が競争力維持の前提条件になりつつある ✓ 自社のデータ管理基盤が整備されておらず、データスペースへの参加に向けた準備が急務

データスペースへの対応は「難しい概念を理解すること」が目的ではありません。「規制が発効される前にデータ管理基盤を整備し・必要な連携先を確定し・コネクタを通じたデータ提供体制を構築する」という実務的な準備が求められています。欧州電池規則の発効を「自社には関係ない」と思っている企業ほど、発効後に取引停止という深刻なリスクに突然直面します。今から動き始めることが、このリスクを回避する唯一の方法です。

8|経営者への一言

「データ連携はIT部門の話」という認識が最も危険です。欧州電池規則は「データを管理できない企業との取引停止」という形で、すでに経営の生命線に直結する問題になっています。データスペースへの対応は、DXの「応用」ではなく「基礎インフラ」として、今すぐ経営議題に上げるべき優先課題です。

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