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「代替可能」の次に来る問いを考えよ— AIと人間の仕事の境界線が示す経営アジェンダ—「とげ作り」と「感性設計」が示す人材・DX戦略の次の論点

2026.07.28GROWTH INTELLIGENCE 編集部

AIに仕事が奪われるという不安に組織が包まれ、本来進めるべき業務改革が足踏みしていませんか。生成AIの進化は働き方を根本から見直す好機ですが、現場の混乱の核心は、どの業務をAIに委ね、どの領域を人間が責任を持って担うべきかという『仕事の再定義』がなされていない点にあります。単なるツール導入では、人間にしか発揮できない共感力や倫理的判断、ゼロから価値を創る創造性といった強みまで埋没しかねません。解決の方向性は、業務をAIが得意とする情報処理と、人間が担うべき意思決定・価値判断に明確に仕分け、AIを強力なパートナーとして使いこなすための新たなスキルを組織で養うことにあります。人間とAIがそれぞれの得意領域に集中できる体制を整えることこそが、次世代の生産性を生みます。本稿では、NewsPicksの連載「AI時代の非AI論」における山口周氏の仕事分類、落合陽一氏が描く近未来予測、そして生成AIとの対話実践から見えてきた「人間に残る仕事の輪郭」を、経営者・人材戦略担当者がAI時代の組織設計を考えるための判断材料として整理します。

1|結論—今すぐ取るべき経営判旗

AI導入の議論は「何を自動化できるか」で止まりがちですが、本質的な経営課題は「AI化が進んだ先で、自社の人材・ブランドはどこに価値を残すか」です。歴史的に技術は物理的×定型業務(産業革命)、認知的×定型業務(デジタル革命)を代替してきましたが、現在は認知的×非定型業務にもAIが入り込みつつあります。残る価値は「創造性・意志・感性」という、論理的延長線上にはない領域です。落合陽一氏が指摘する「とげ作り」(論理的飛躍を生む力)と、「人対機械」「人対人」のコミュニケーションが成立する仕事は容易に置き換わりません。DX推進と並行して、自社の人材配置・ブランド戦略をこの軸で再設計することが経営者に求められています。

AI時代に企業やブランドがどのような役割を果たすのかを考える前提として、「AIと人間の仕事の境界線」についての現在の議論を整理する必要があります。

2|なぜ今、「AIが代替できない仕事」を議論する必要があるのか—技術代替の歴史的パターン

独立研究者・著作家の山口周氏は、人間の仕事を「物理的作業×定型業務」「物理的作業×非定型業務」「認知的作業×定型業務」「認知的作業×非定型業務」の4象限で整理しています。この分類をもとに、技術が歴史の中でどのように人間の仕事を代替してきたかを説明できます。 残された第4象限が「物理的×非定型な仕事」、いわゆるエッセンシャルワークに類する領域です。もっとも、AIとロボティクスを組み合わせた取り組みも猛烈なスピードで進んでおり、この領域もかなりの部分が機械に代替されていくだろう、という見立てもあります。

3|人間に残る仕事の輪郭—「創造性」「とげ作り」「モチベーション」

▶ 「ホモ・ルーデンス」としての人間の仕事 山口氏は最終的に、人間に残る仕事は「遊ぶこと」だと語ります。オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガが提示した「ホモ・ルーデンス(Homo Ludens)」の領域です。「人間を文化的存在たらしめる根源は、遊ぶ能力にある」というこの人間観では、法・戦争・芸術・宗教・学問といった文明的活動の多くが「遊び」から生まれ、その過程で人間は新しい意味・物語・形式を生み出していくとされます。つまり、創造性を発揮する仕事こそが人間に残る唯一の仕事領域になるのではないか、という見立てです。ナビゲーターの波頭亮氏はこれに対し、茶道や華道のお師匠さん、職人・工芸作家といった、知的な部分と肉体的な部分の両方をまたぐ「境界の仕事」も人間に残り続けると指摘しています。

▶ 落合陽一が指摘する「とげ作り」と「クリエイティブ・クラス」 落合陽一氏は、知的作業のほとんどが2026年頭までにほぼAIに置き換わり、「考える仕事」の量が圧倒的に減ると予測しています。AIが作業をするために必要な条件を整える「環境構築」が主な人間の仕事になり、もう一つ人間に残されるのが「とげ作り」です。ここで言う「とげ作り」とは、合理的な延長線上にはない論理のジャンプやひっかかりを生み出すことであり、人が「面白い」と思うものに含まれる「おもしろさ」「心のひっかかり」に結びつく要素です。

落合氏はさらに、AIに置き換えられにくい仕事として「人対機械」(自動車工・整備士など実際に機械に接する仕事)と「人対人」(医師・運転士・管理職・教師など対面のコミュニケーションによって成立する仕事)を挙げています。そして「機械に代替されにくい人材」の条件として、「もっとこうしたい」という意志を持つ「クリエイティブ・クラス」(映画監督・建築家・会社のCEO・アーティストなど創造的専門性を持った知的労働者)を提示しています。彼らはAIにはなく人間にだけある「モチベーション」を持っているため、「システムに使われる側」ではなく「システムを使う側」で居続けることができると落合氏は述べています。

人間に残る仕事の輪郭:①新しい創造を通じて意味や意志をつくる仕事、②過去の総論的な合理性ではなく未来に対する「とげ」を生み出す仕事、③物理的な「人と人」のコミュニケーションや「人ともの」のやりとりから得られる感覚・感性に関わる仕事—この3つが、AI時代においても人間固有の役割として残っていくと考えられます。

4|思考を逸脱させるGPTとの対話実践が示すもの

Bebitの藤井氏が発行するニュースレターでは、技術が登場するたびに人間がどう拡張されてきたかが語られています。スポーツではビデオ確認の普及でより上手い選手が生まれやすくなり、音楽やダンスではYouTubeなどリファレンスの爆発的増加で習得が容易になりました。生成AIの登場による人間拡張の可能性のひとつとして、藤井氏は「随時、自分の横に、自分がもらいたいフィードバックや自分の枠組みを超えるフィードバックが返ってくる仕組みを構築できること」を指摘しています。これができる人とできない人では、これからの成長速度が段違いに変わるといいます。この問題意識から作られたのが、自分の思考の枠組みを踏まえたうえでそこからの逸脱を促すGPTs「思考逸脱支援エージェント」です。実際にこのGPTを使い「全く別角度からの示唆を加えてください」と問いかけたところ、数々のラリーの末に「ブランドとは意味の集合ではなく、感覚のパターンである」という応答が返ってきました。人間の仕事として「意味」づくりが大事だという認識から少しはみ出すかたちで、改めて「感覚」「感性」という領域が浮かび上がってきたのです。さらに「五感がないはずのAIが感覚についての議論をどう深めるのか」という問いを重ねた結果、「AIと人の感性設計マニフェスト」という10の考え方が立ち上がりました。核心は「AIは感覚を持たないが、人は感覚を持つ」という前提のもと、「感性は伝えるのではなく引き出すもの」「小さなズレや違和感こそが感性を動かす」「AIは人の感性を再現するのではなく支える設計者になり得る」という考え方です。

対話実践が示す示唆は人間同士の場合、前提を根本から揺さぶる意見には感情が絡み対話自体が壊れることがありますが、AIは感情を持たないため一旦フラットに受け止めやすいという特性があります。「AIだからこそ、思考の枠組みを拡げられる」という側面が、AIを単なる代替ツールではなく思考拡張のパートナーとして活用する道を示しています。

5|AI時代の人材・ブランド戦略で陥りやすい誤解

誤解① 「AIが代替できない仕事=専門職だけ」という単純化 落合氏が指摘するAIに置き換えられにくい仕事には、自動車工・整備士のような「人対機械」の仕事や、医師・運転士・管理職・教師のような「人対人」の仕事が含まれます。「クリエイティブ・クラス」だけが残るという単純な図式ではなく、対面のコミュニケーションや実際の機械操作を伴う幅広い職種がAI時代も価値を持ち続けます。

誤解② 「AIに思考を任せれば人間の成長は不要になる」という誤算 藤井氏が指摘するように、AIによる人間拡張の核心は「自分の枠組みを超えるフィードバックを得られる仕組みを構築できるか」にあります。AIに思考を委ねきるのではなく、AIとの対話を通じて自分の思考の枠組み自体を拡張できる人とできない人で、今後の成長速度が大きく変わると考えられます。

誤解③ 「ブランドは意味づくりだけで完結する」という見落とし GPTとの対話実践から立ち上がった「ブランドとは意味の集合ではなく、感覚のパターンである」という示唆は、ブランド戦略における重要な視点です。意味づくりだけに注力すると、認知される前に感じられ共感される前に侵入してくる「感覚」「感性」という、人間固有の最前線の領域を見落とすことになります。

誤解④ 「AIに感性を再現させれば人間の感性設計は不要」という誤解 「AIと人の感性設計マニフェスト」が示すように、AIは感覚を持たず、人の感性を再現するのではなく支える設計者になり得る存在です。感性は「伝える」のではなく「引き出す」ものであり、AIに感性表現を丸投げするのではなく、人が感じる準備を整える「舞台づくり」としての設計が求められます。

6|実行のポイント—AI時代の人材配置・ブランド戦略を設計する3ステップ

STEP 1 自社の業務を、4象限で棚卸しする

自社の各業務が「物理的×定型」「物理的×非定型」「認知的×定型」「認知的×非定型」のどの象限に属するかを棚卸ししてください。「認知的×定型業務」(デジタル革命で代替済み)「認知的×非定型業務」(AI革命で代替が進行中)に属する業務を特定することが、AI活用の優先順位づけの起点です。

STEP 2 「とげ作り」と「人対人」の人材に投資を集中する

落合氏の見立てに基づき、「人対機械」(実際に機械に接する仕事)と「人対人」(対面のコミュニケーションによって成立する仕事)に従事する人材、そして「もっとこうしたい」という意志を持つ「クリエイティブ・クラス」人材への投資を優先してください。「考える仕事」をAIに委ねる代わりに、「環境構築」と「とげ作り」(論理的飛躍を生む創造性)に人的リソースをシフトする組織設計が有効です。

STEP 3 AIを「思考拡張のパートナー」として活用する仕組みを作る

AIを単なる業務自動化ツールではなく、社員自身の思考の枠組みを超えるフィードバックを得られる「思考逸脱支援」のパートナーとして活用する仕組みを検討してください。AIは感情を持たないため、前提を根本から揺さぶる意見もフラットに受け止められるという特性があります。この特性を、ブランド戦略・商品開発における「感性を引き出す舞台づくり」に活かす設計が、AI時代の差別化要因になります。

7|経営判断チェックリスト—AI時代の人材・ブランド戦略を見直すべき企業の条件

✓ AI導入を「業務効率化」の文脈でしか議論しておらず、人材配置の再設計まで踏み込めていない ✓ 「人対人」「人対機械」の対面性・身体性を伴う業務の価値を経営上明確に位置づけられていない ✓ 社員のクリエイティブな意志・モチベーションを引き出す育成・評価の仕組みが乏しい ✓ 自社ブランドの「意味づくり」には取り組んでいるが「感覚・感性」の設計に着手していない ✓ AIを業務自動化ツールとしてのみ捉えており、思考拡張のパートナーとしての活用を検討していない

AI時代にブランドや企業がどのような役割を果たすのかを考えるには、まず「AIと人間の仕事の境界線」を正確に理解することが出発点です。新しい創造を通じて意味や意志をつくる仕事、過去の合理性ではなく未来への「とげ」を生み出す仕事、人と人・人とものの間で得られる感覚・感性に関わる仕事—この3つの領域に経営資源をどう配分するかが、AI時代の競争優位を左右します。人が感じ、AIが支え、両者のあいだで新しい文化や体験が立ち上がっていく—そんな組織・ブランド設計を今から準備することが求められています。

8|経営者への一言

AIは感覚を持たない。人は感覚を持つ。AIが代替するのは「考える仕事」であり、人間に残るのは「意志を持って創る仕事」だ。この境界線をどう自社の人材・ブランド戦略に落とし込むかが、次の経営アジェンダである。

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