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組織・人材戦略

「出社に行かせる」から「出社を選ばれる」へ— 出社・オフィス制度の再設計が問う組織・人材戦略の本質

2026.08.31GROWTH INTELLIGENCE 編集部

出社かリモートかという議論は、もはや本質ではありません。多様な働き方が定着した今、企業に問われているのは「オフィスは何のために存在するのか」という問いです。リモートで業務効率が維持される一方、若手育成の難しさや偶発的なコミュニケーションの減少、組織文化の希薄化といった副作用も顕在化しています。 出社に物理的コストが伴う以上、意味を持たせられなければオフィスは単なる固定費になります。本稿では、「出社か在宅か」という二項対立を超えた視座から、オフィスが担うべき価値・出社制度の設計原則・国内外の企業動向・オフィス市場データを経営者・人事責任者の判断材料として整理します。 働き方の制度設計は人事施策ではなく、組織戦略そのものです。出社制度をどう設計するかが、企業の競争力や組織力を左右する時代に入っています。

1|結論—今すぐ取るべき経営判断

出社制度の本質は「出社させること」ではなく「出社することに価値があると社員に思わせること」です。Unispaceの2023年グローバル調査によれば回答企業の約72%が出社義務化制度を導入済みであり、国内でもJob総研の調査で出社回帰の動きが50%超という状況です。一方、東京の平均オフィス賃料は6四半期連続上昇(JLL)、Grade Aオフィスの空室率は低下傾向(CBRE)であり、企業がオフィスを「コスト」から「人材確保・ブランド強化・生産性向上のための戦略的資産」として再定義し始めていることを示しています。求職者の約7割が企業選びでオフィス環境を重視するという調査結果(ツナグ・ホールディングス)も踏まえると、出社制度とオフィス設計は採用競争力・定着率・エンゲージメントに直結する経営レベルの人材戦略アジェンダです。

かつて「働くこと」は「会社に出社すること」とほぼ同義でした。しかしコロナを機に働き方は多様化し、完全リモート・ハイブリッド・出社回帰という様々なポリシーが併存する時代となりました。

2|なぜ今「出社の再定義」が組織・人材戦略の中核になるのか—リモートの限界とオフィスの非代替価値

テレワークの浸透により多くの業務がオンラインで完結可能となった今、オフィスに行く意味を見出せないと感じる社員が増えています。しかし完全リモートワークには限界と弊害も存在することが徐々に明らかになっています。第一に、新入社員・若手社員の育成(OJT)が機能しづらくなっています。先輩社員の行動から学びタイミングを見て質問する「偶発的な学び」の機会がリモート環境では著しく減少しています。第二に、廊下での立ち話・ランチミーティング・雑談といった非公式コミュニケーションが失われ、社員間の関係性が徐々に希薄になっています。第三に、組織文化の伝承・浸透が困難になっています。業務効率は担保できても「なぜそうするのか」という暗黙の了解や空気感が伝わりにくく、新卒・中途入社の社員はカルチャーへの適応に苦労する傾向があります。

これらが重なることで、「誰に何を相談すればよいか分からない」「組織の中で自分がどう位置づけられているか実感できない」という帰属意識の低下・心理的孤立感の増大が多くの企業の社内サーベイで顕在化しており、定着率やモチベーションの維持に影響を与えています。

3|海外・国内の出社回帰動向—多様化するオフィスの位置づけ

▶ 海外動向:72%が出社義務化制度を導入済み Unispaceの2023年グローバル調査では、回答企業の約72%が出社義務化制度を導入済みと回答しています。Amazon・Google・J.P.モルガン・スターバックスなど米国大手の多くが週3〜5日の出社を求めており、この潮流は一過性でなく制度として定着の兆しを見せています。出社回帰の背景には「対面でのブレインストーミングが創造的発想やチーム信頼構築に不可欠」という認識の広がりと、高額な住宅補助との整合性(在宅常態化でも補助を支給し続けることへの疑問)という2つの要因があります。

▶ 国内動向:出社回帰が50%超、週3日以上出社も半数以上 Job総研の「2025年 出社に関する実態調査」によれば、職場に出社回帰の動きがある・ある予定という割合は50%をわずかに上回り、週3日以上出社している割合も50%超となっています。ただし国内企業の出社スタイルは多様化しており、一律の出社義務化ではなく業務内容と組織文化に応じた最適なスタイルを模索する動きが際立っています。こうした企業に共通するのは「出社頻度」ではなく「出社の意味」を重視している点です。企業文化と業務内容に応じて最適なバランスを探る姿勢こそが、今の時代のオフィス戦略の核心です。

4|オフィス市場データが示す戦略的資産化の動き

CBREのレポートでは2024年第一四半期のオフィス賃料の下落はゼロとなっており、全国的にオフィス需要が回復していることが推察されます。JLLのレポートによれば東京の平均オフィス賃料は6四半期連続の上昇となっており、Grade Aオフィスの空室率も低下傾向にあります。こうした高品質物件への需要が堅調に推移している背景には、企業がオフィスを単なるコストではなく「人材確保」「ブランド強化」「生産性向上」に寄与する戦略的資産と位置づけ始めている現実があります。

求職者の約7割がオフィス環境を企業選びの重要基準に挙げています(ツナグ・ホールディングス調査)。これは、オフィスが採用競争力・定着率に直結する人材戦略の要素であることを意味します。近年では洗練されたオフィス環境をブランディング要素として積極発信する企業も増えており、「どのようなオフィスで働くのか」が就職希望者の意思決定に大きく影響する時代になっています。

5|出社制度設計の落とし穴—経営者・人事責任者が陥りやすい失敗パターン

誤解① 「出社回帰は古い働き方への逆戻り」という思い込み 米国大手企業の出社回帰は「管理の強化」ではなく、報酬制度・生産性・組織文化という中核的な経営課題への包括的な戦略判断の一環です。国内でも50%超の企業が出社回帰の動きを見せていますが、これは「出社を義務づけること」が目的ではなく「出社することで得られる価値を最大化すること」が目的です。

誤解② 「フルリモートにすれば採用競争力が高まる」という単純化 求職者の約7割がオフィス環境を企業選びで重視するという調査結果が示すように、「フルリモート=求職者に人気」という等式は成立しません。メルカリのようにフルリモートを選択する企業も、バーチャルイベントや出張支援でつながりを補完しています。重要なのは制度の種類ではなく、制度の意図と社員体験の質です。

誤解③ 「オフィス設計は総務・施設管理の担当領域」という縦割り Grade Aオフィスへの需要拡大・東京オフィス賃料6四半期連続上昇というデータは、企業がオフィスを人材確保・ブランド強化・生産性向上の戦略的資産として再定義していることを示します。オフィス戦略はもはや総務部門や施設管理だけの課題ではなく、経営層・人事部門・事業部門を巻き込んだ企業全体の戦略アジェンダです。

誤解④ 「制度を導入すれば運用は現場に任せてよい」という設計の省略 出社制度が「暗黙の強制」や「評価面でのペナルティ」と捉えられると社員の心理的安全性を損ないモチベーション・エンゲージメントを低下させるリスクがあります。制度の背景・目的・活用方法まで丁寧に設計し、社員からのフィードバックを基にした継続的な見直し(ES調査・サーベイ・マネージャー層との対話)が不可欠です。

6|実行のポイント—「出社を選ばれる場所」にするための4ステップ

STEP 1 「出社する意味」を組織として定義する

OJTの機能、偶発的なコミュニケーション、組織文化の伝承、創造的な協働という「リモートでは代替できない価値」を言語化し、自社のオフィスがその価値を生み出せる空間として設計されているかを評価してください。「出社頻度」ではなく「出社することで何が実現されるか」が設計の起点です。

STEP 2 目的に応じた空間設計を行う

集中作業ゾーン・チーム対話のためのコラボレーションエリア・静音のWeb会議専用ブース・オープンなコミュニケーションを誘発するカフェスペースなど、多様な業務スタイルに対応する空間を整備してください。「社員同士のつながりと創造性を促す文化醸成の場」としての役割設計が重要です。特にハイブリッドワークでは「出社する意義」が曖昧になりやすいため、オフィスでしか得られない体験を意図的に設計することが必要です。

STEP 3 制度設計とコミュニケーションを丁寧に行う

出社を「義務」とする場合でも、その理由・意図・期待される効果を丁寧に社員に説明することで信頼関係を築けます。制度が「暗黙の強制」や「評価ペナルティ」と受け取られないよう、社員の心理的安全性を損なわない運用設計が必要です。合わせて、出社制度の選択を尊重する姿勢をどう示すかも設計してください。

STEP 4 ES調査・サーベイ・マネージャー層対話で継続的に見直す

働き方やライフスタイル、社会情勢は刻々と変化するため、制度は一度導入したら終わりではありません。ES調査やサーベイツールによる定量的なモニタリングとマネージャー層との対話による定性的な把握を組み合わせ、実態を定期的に把握して制度に反映させる柔軟性が必要です。「企業が一方的に働き方を決める」のではなく、「社員との協働で共に納得のいく職場環境を築く」姿勢が持続的な組織成長につながります。

7|経営判断チェックリスト—オフィス・出社制度を再設計すべき企業の条件

✓ 現行の出社・リモート制度が、OJT機能・組織文化の伝承・チームのつながり強化に貢献できているか評価していない ✓ オフィスを「コスト」として捉えており、人材確保・ブランド強化・生産性向上の戦略的資産として再設計していない ✓ 出社制度の設計・運用が、社員に「暗黙の強制」や「評価ペナルティ」として受け取られていないか定期的に確認できていない ✓ 求職者がオフィス環境を重視するというデータを踏まえた採用ブランディング戦略を持っていない ✓ オフィス戦略が総務・施設管理部門に閉じており、経営層・人事・事業部門を巻き込んだ全社戦略になっていない

働き方の多様化が急速に進む中、オフィスの役割も「固定的な勤務場所」から「柔軟かつ戦略的な価値創出の場」へと変容しています。企業が目指すべきは「出社を義務づけるか否か」という判断軸から脱却し、「出社することでどのような価値を生み出せるか」を最大化する戦略的視座への転換です。オフィスをただの場所として捉えるのではなく、社員一人ひとりの体験価値を起点としたイノベーション・人材定着・エンゲージメント・事業成長のためのプラットフォームとして設計し直すことが、競争力を左右する不可欠な戦略判断です。

8|経営者への一言

「出社させる制度」を設計する企業と、「出社を選ばれる場所」を設計する企業—その差が、5年後の採用力・定着率・組織文化の差になる。

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