
「粗利が低い」では改善できない—顧客×商品×部門の3軸クロス分析で課題を可視化し施策を導くBtoB粗利分析の実践ガイド
2026.08.04GROWTH INTELLIGENCE 編集部
売上だけを指標に営業活動を評価していませんか。BtoBビジネスでは売上規模が大きく見える案件であっても、実際には利益率が低く企業の収益に十分貢献していないケースが存在します。特にBtoB営業では顧客ごとの取引条件や商流が複雑であり、売上だけを見て営業成果を判断すると、収益構造の実態を見誤る可能性があります。その結果、利益の少ない案件に営業リソースが集中してしまい、企業全体の収益性を低下させるリスクも生まれます。こうした課題を解決するためには、売上ではなく粗利の観点から営業活動を分析することが重要になります。本稿では小売店向けの販促物を取り扱う商社Aの実際の事例を基に、3軸分析の設計・各クロス軸から得られる示唆・具体的な施策を経営者・営業責任者の判断材料として整理します。
1|結論—「粗利が低い」という問題認識だけでは何も変わらない
BtoB営業では顧客によって提供価格がばらつきやすく、仕入れ値も変動するため、粗利率が顧客・商品・営業担当者によって大きく異なることが構造的に発生します。「粗利が低い原因として価格表が整備されていない・営業担当のスキルに差がある」という現場の声がありながらも「どの程度影響しているか」「優先的に改善すべきことが何か」が明確でないまま問題が放置されるケースが多く見られます。 自社の事業を「顧客」「商品」「部門(営業担当)」の3軸で分析し、3軸を組み合わせたクロス分析を行うことで初めて課題が可視化され、優先施策が決まります。2|BtoB営業における粗利管理の構造的特徴—BtoCとは根本的に異なる
BtoB粗利分析が「BtoCより重要な理由」: 顧客によって粗利率が異なるため、「売れている顧客」が必ずしも「利益に貢献している顧客」ではありません。売上の大きい顧客が低粗利率で、売上の小さい顧客が高粗利率という逆転現象が起きやすいBtoBでは、粗利分析なしに営業投資の優先度を正しく決めることが困難です。
3|3つの分析軸—何を組み合わせて何を見るか
粗利を分析するための3つの軸(顧客・商品・部門/営業担当)と、その組み合わせによる3つのクロス分析で見えることを整理します。
3軸のクロス分析の組み合わせ: 顧客×商品軸:顧客によって購入する商材に偏りはないか・粗利率が低い顧客と高い顧客の商品構成の違い 商品×部門(営業担当)軸:部門ごとに価格帯によって粗利率に違いはないか・売れ筋商品の粗利率の差 顧客×部門(営業担当)軸:同一商品で比較した時の部門/担当者による粗利差・顧客依存の偏り
クロス分析① 顧客×商品軸—「粗利率の高い商材への誘導機会」を発見する
顧客×商品軸では、顧客グループ別の商品構成と粗利率の関係を分析します。商社Aの事例では以下の発見がありました。
顧客×商品軸分析の実践的な意味: 「この顧客はなぜ低粗利の商品しか買っていないのか」という問いが出発点です。それが「認知していないから(提案の機会がない)」なのか「価格競争になっているから(価格表の問題)」なのかで打つべき施策が変わります。軸分析の価値は「なぜ」を特定することです。
クロス分析② 商品×部門(営業担当)軸—「価格表の有無」が粗利率を分ける
商品×部門軸では、部門ごとの価格帯別粗利率を比較します。商社Aの事例では3つの部門で以下の差異が明確になりました。
商品×部門軸分析から得られる最重要の示唆: 「価格表が整備されているかどうか」が粗利率の差に直結していることが可視化されました。価格表の整備は「一度やれば仕組みとして機能し続ける」施策であり、営業担当の個人スキルに依存せず組織全体の粗利率を底上げできる、最もコスト対効果の高い施策の一つです。
クロス分析③ 顧客×部門(営業担当)軸—「顧客依存」と「担当者による単価差」を特定する
顧客×部門軸では、担当者グループごとの顧客依存度と同一商品での単価差を分析します。商社Aの事例では2つの重要な発見がありました。▶ 発見① 顧客依存の偏り 営業担当グループ②は顧客(イ)に依存しているのに対して、営業担当グループ①の売上は顧客(ア)でも比較的あがっていました。顧客(ア)では粗利率が高いことから、営業担当グループ②でも顧客(ア)に対して商品を提案することで粗利率向上が見込めます。
▶ 発見② 担当者・仕入れルートによる単価差 同じ商品でも顧客(ア)への提供単価が部門によって異なる場合があります。「商品を提供する部門の影響で単価が小さい」のではなく「顧客(ア)に対して提供する商材の単価が小さい」と判断できるケースがあります。一方で商材Ⅱでは「顧客によって仕入れ値に差があるために原価が異なる仕入れ方になっている」という構造的問題も判明しました。
4|3軸クロス分析から導かれる5つの施策
5つの施策の優先順位付けの考え方: 「改善により見込める粗利金額×実施難易度」で優先順位を設定します。価格表の整備は「実施難易度が低い×効果が組織全体に及ぶ」ため、最優先施策として位置づけられます。仕入れルートの一本化は関係先との調整が必要なため時間がかかりますが、効果は恒久的です。営業トレーニングは効果が出るまでに時間がかかりますが、長期的な組織能力向上につながります。
5|経営判断チェックリスト—粗利分析を今実施すべき企業の条件
✓ 「粗利が低い」という認識はあるが、どの顧客・商品・部門が主因かが特定できていない ✓ 顧客ごとの粗利率を把握しておらず、売上が高い顧客が必ずしも利益に貢献しているかどうか不明 ✓ 営業担当によって同じ商品でも提示価格が異なり、粗利率のばらつきが大きい ✓ 価格表が整備されていない、または価格表にない注文への都度対応で低粗利の取引が発生している ✓ 仕入れルートが複数あり、同じ商品でも顧客・部門によって仕入れ値が異なっている ✓ 売上構成上位の商品の粗利率が低く、売れれば売れるほど収益性が下がる構造になっているBtoB営業における粗利改善は「安く仕入れて高く売る」という単純な発想では実現しません。顧客・商品・部門(営業担当)という3軸で現状を分析し、各クロス軸から課題を特定して優先施策を導くというデータドリブンなアプローチが必要です。特に「価格表の整備」という施策は、担当者個人のスキルに頼らず組織全体の粗利率を底上げする最もコスト対効果の高い改善手段であり、今すぐ着手できる経営基盤の強化策です。