
テレワークは「自由の恩恵」を享受する者と「自由に飲み込まれる」者に組織を二極化させる
2026.08.04GROWTH INTELLIGENCE 編集部
テレワーク下で、社員のモチベーションやオン・オフの切り替えを十分に管理できているでしょうか。リモート環境では成果物ベースのコミュニケーションが増える一方、表情や空気感といった感情面の情報が共有されにくくなり、管理者が個々の状態を把握しづらくなります。オンライン飲み会や1on1の頻度増加といった工夫は一定の効果を持つものの、リアルな職場で自然に行われていた小さな会話や温度感の共有を完全に代替することは困難です。また、自宅での勤務はオンとオフの境界を曖昧にし、生活リズムの乱れや過剰労働を招くこともあります。こうした課題に対して本稿はテレワーク時代のタイムマネジメント連載の最終回として、「モチベーション等感情面の把握困難」と「オン/オフの境目のあいまい化」という2つの課題への対処を、経営者・人事責任者の実践材料として整理します。リモートワーク特有の弱点をどう補い、働き方を整えるかを実践的に整理した内容です。
1|結論—「自由は増えた。だが、自分で能動的に管理しないといけない」
テレワーク環境において、時間管理という側面から見ると従来のオフィス勤務環境に比べて自由度は圧倒的に高まります。移動時間の削減という一点だけを取っても、テレワークは余剰時間を生み出す効果があります。しかし「この自由を活かすも殺すも自分次第」というのがテレワーク時代の残酷な現実です。自由を活かす人材は生産性を劇的に向上させ、自由を管理できない人材は競争環境で劣位に甘んじます。この「二極化」は個人の問題ではなく、組織として解決すべき人材マネジメントの課題です。モチベーション管理・オンオフ設計・パワーナップという3つの実践知見が、個人と組織の生産性を同時に最大化する経営者・人事責任者の手段となります。2|テレワークが生む2つの構造的課題—オフィス勤務では自然に解決できていたことが機能しなくなる
3|課題①への対処—モチベーション管理の3つのアプローチ
テレワーク環境下でのモチベーション管理には段階的なアプローチが有効です。オンラインで完結できるものから、必要に応じてオフラインを組み合わせるという設計が現実的です。
経営者・人事責任者への示唆:「完全な代替はない」という前提での設計 テレワーク環境でのオンラインコミュニケーションは、リアルの職場でできたことを完全には補完できません。この限界を正直に認識した上で「何をオンラインで・何をオフラインで補完するか」を設計することが、モチベーション管理の現実的なアプローチです。「オンライン飲み会を増やせば解決する」という発想は誤りで、「どのコミュニケーションをどの手段で充足するか」という設計思想が必要です。
4|課題②への対処—オン/オフ設計の実践「ルーティン化」の力
オン/オフの境目のあいまい化への対処は一言で「自己管理をしっかりせよ」ですが、それを組織として支援するために最も効果的な手段が「ルーティンを作る」という方法です。▶ ルーティン(習慣化)の仕組みと効果 ルーティンとは「決まっている手順・お決まりの所作・日課」など繰り返しを意味します。生活におけるルーティン・習慣化を定着させることで、自然と体と脳の切り替えができるようになります。テレワーク環境では「朝のルーティン(仕事モードへの切り替え)」と「夜のルーティン(仕事から離れる切り替え)」を意図的に設計することが重要です。
組織として「ルーティン化」を支援するための人事施策の方向性: 個人のルーティン化は完全に個人任せでは定着しにくい。組織として「始業・終業の時刻報告の仕組み」「朝の全体チェックインミーティング」という組織的なルーティンを作ることで、個人のルーティン化を後押しする仕組みが効果的です。特に新入社員・テレワーク不慣れな社員への支援として、組織的なルーティンの存在が自己管理能力の差を補完します。
5|パワーナップ(短時間仮眠)—NASAが実証した生産性向上の科学的根拠
テレワーク環境の最大の潜在的メリットの一つが「パワーナップ(短時間の仮眠)」の実施可能性です。オフィスでは難しかったパワーナップが、自宅では実施しやすい環境が整っています。▶ パワーナップの科学的根拠 パワーナップの効果を科学的に実証したのはNASA(アメリカ航空宇宙局)です。1995年頃から実施した「NASA Naps」という仮眠実証実験では、昼に26分間の仮眠で認知能力が34%・注意力が54%向上するという結果が出ました。Google・Apple・Microsoft・NIKEなどの世界的企業でもパワーナップが積極的に推奨されており、仮眠スペースや睡眠装置を設置する企業も増えています。
▶ 仮眠の適切な時間—「20分以内」が最も効果的な理由
テレワーク環境がパワーナップを「実現可能」にした理由: オフィス勤務時代は「仮眠をとったほうが生産性が上がる」と分かっていても周りの目が気になり実施できないというジレンマがありました。自宅には眠りにつくための最適な環境が整っており、テレワーク環境ではこのジレンマが解消されます。積極的にパワーナップを取り入れることで、覚醒時の生産性向上によりオフィス勤務時よりも高いパフォーマンスを実現できます。人体のメカニズムとして午後2〜4時頃に眠気のピークが設定されており、この時間帯の20分の仮眠は生理学的にも理にかなっています。
6|3つの実践知見の統合—組織として設計すべきテレワーク時代の生産性管理
テレワーク時代のタイムマネジメント—実践知見のまとめ: ✓ モチベーション管理:オンライン×ハイブリッド(オフライン定期集会)の組み合わせで設計する ✓ オンオフ切り替え:朝のオン切り替えルーティン+夜のオフ切り替えルーティンを習慣化する ✓ パワーナップ:午後に20分以内の仮眠を積極的に実施することで認知能力と注意力を回復させる ✓ 組織設計:個人の自己管理を完全に任せるのではなく、組織的なルーティンで支援する仕組みを作る
7|経営判断チェックリスト—テレワーク時代の人材・組織マネジメントを今見直すべき企業の条件
✓ テレワーク導入後、社員のモチベーション状態・メンタルヘルスの把握が困難になっており、異変の早期発見ができていない ✓ オンラインコミュニケーションの増加に伴い、社員同士の非公式な交流・偶発的なコミュニケーションが激減している ✓ 社員の勤務時間を可視化しておらず、長時間労働とサボりの両方が同時に存在している可能性がある ✓ テレワーク下で始業と終業の境界があいまいで、業務と私生活が混在した不健全な状態が続いている ✓ テレワーク環境の生産性向上の可能性(パワーナップ・時間の柔軟活用等)を組織として活用できていない ✓ テレワーク対応が「仕方なく導入したもの」から「競争力を高める働き方」に昇格していないテレワーク環境は「管理が困難になった」ではなく「管理の方法が変わった」という認識の転換が経営者に求められます。オフィスで自然に補完されていたことを、意図的に設計し直すことがテレワーク時代の人材マネジメントの本質です。モチベーション管理・オンオフ設計・パワーナップという3つの実践を組織として支援する仕組みを作ることで、テレワーク環境は「管理の課題」から「競争力の源泉」に変わります。