
飲食店モバイルオーダー活用の実践—5つのメリット・3つの注意点
2026.08.31GROWTH INTELLIGENCE 編集部
1|結論—モバイルオーダーはアフターコロナでも廃れない「利便性」に根差したDX手段
モバイルオーダーとは、スマートフォンのアプリやWebブラウザから事前に注文・決済を行い、店舗で待ち時間なく商品を受け取る仕組みです。利用者アンケートでは不満を覚えた割合が2割未満、利用者の85.1%が満足という高い評価を示しています。認知度はまだ十分に浸透しているとは言えませんが、 「待ち時間の短縮」「メニュー選択の快適さ」「キャッシュレス決済」という3つのメリットが顧客に高く評価されており、アフターコロナでも廃れない普及が見込まれます。2|5つのメリット—顧客体験と運営効率を同時に改善する
モバイルオーダーが顧客と店舗の双方にもたらすメリットを5つ整理します。「顧客体験の向上」と「店舗オペレーションの効率化」という2軸で経営的価値を捉えると整理しやすくなります。
5つのメリットの中で特に注目すべきは「②メニュー選択の快適さ」です。アンケート調査でも「今まで気が付かなかった商品やクーポンを発見できた」という回答が上位に挙がっており、モバイルオーダー導入が客単価向上という直接的な売上改善につながる可能性を示しています。「待ち時間短縮」という入口の価値だけでなく、「購買の質向上」という出口の価値も持っています。
3|3つの注意点—導入前に整備しておくべきリスクと対策
利用者満足度は高い一方で、モバイルオーダーの普及に伴って表面化しうる注意点が3点あります。これらは導入前に対策を設計しておくことで影響を最小化できます。
3点の注意点に共通する対処法は「モバイルオーダー導入を告知・説明するコミュニケーションの設計」です。認知度の低さは「丁寧な案内」によって大部分が解消できます。不正受け取りリスクは「確認の仕組みを最初から設計に組み込む」ことで防止できます。接客機会の減少は「省力化した時間を質の高い接客に使う」という方針転換で補完できます。
4|3社の導入事例—業態ごとの活用設計の違い
実際にモバイルオーダーを導入している代表的な3社の事例を整理します。それぞれの業態特性に合わせた導入設計の違いが、他の飲食店経営者にとっての参考事例になります。▶ 事例① マクドナルド—業界先行での大規模展開と受け取り多様化 マクドナルドはコロナが流行する以前の2019年から、業界に先行してモバイルオーダーを導入しています。利用方法は独自アプリのインストール・会員登録から始まり、利用したい店舗とメニューを選んで注文、出来上がり通知が届いたら指定の受け取り場所で受け取る流れです。特筆すべきはイートイン・テイクアウト・ドライブスルーという複数の受け取り方式に対応している点です。店舗によって「先に席を確保してからイートインで受け取る」という選択が可能であり、テイクアウト専用ではなくイートイン需要にも応えた設計になっています。メニュー画面がおすすめ・セットなどジャンル別に整理されており、選びやすい設計も評価されています。
▶ 事例② スターバックス—カスタマイズ注文との親和性と不正対策
スターバックスもマクドナルドと同様に2019年から導入しており、アプリからの注文が基本の流れです。スターバックスならではの特徴は2点です。
不正受け取り対策として、注文時に任意の名前を付けられる設計を採用しています。受け取り時に名前の確認が入るため、偽造画面での不正受け取りを防止する仕組みです。
▶ 事例③ 春水堂—自社アプリなし・Webサービス活用とカスタマイズ対応 タピオカブームを代表する春水堂は、自社アプリを開発せず「PLATFORM」という外部Webサービスを活用してモバイルオーダーを実現しています。ブラウザでページを開き、名前・クレジットカード番号を入力して店舗と受け取り時間を選択するだけで注文が完了します。
春水堂の事例が示す経営的示唆:「自社アプリ開発は必須ではない」 自社アプリを開発・維持するコストと技術負担は中小飲食店には大きな障壁です。春水堂のように外部のWebサービスを活用することで、開発投資なしにモバイルオーダーの機能を導入できます。初期導入コストを最小化しながら顧客体験を改善できるこのアプローチは、中小飲食店のDX入口として最も現実的な選択肢のひとつです。
春水堂の導入の主な狙いは「台湾など本場ではすでに普及していること」と「接客品質の向上」でしたが、実際の導入後は「ショッピング中に並びたくない層」「子連れで行列に並ぶのが難しい主婦層」という想定外の顧客層からの支持も得られています。タピオカ特有の氷の量・甘さのカスタマイズもモバイルオーダー上で完全対応しており、業態の特性を損なわない設計になっています。
5|3社の比較—業態・目的・設計の違い
6|モバイルオーダーの今後—普及が加速する3つの条件が揃いつつある
モバイルオーダーの認知度はまだ十分に浸透しているとは言えない状況にありますが、普及が加速する条件が着実に揃いつつあります。
モバイルオーダーはコロナ対策として注目された側面がありますが、元々の目的は「人手不足対応」と「顧客体験の向上」にあります。コロナが落ち着いた後も、この2つの課題が飲食業界から消えることはありません。「コロナが終わったら不要になる施策」ではなく「アフターコロナでも機能し続けるDX手段」として位置づけることが重要です。
今後は広まるにつれて、これまで見えていなかった新たな課題が表面化する可能性も否定できません。不正受け取りへの対策強化・高齢者への対応(紙メニューの併用等)・システム障害時のバックアッププランなど、運用設計の精度を継続的に高めていくことが安定した活用の前提条件です。
7|経営判断チェックリスト—モバイルオーダー導入を今検討すべき飲食店の条件
✓ テイクアウト・ファストフード業態で、注文待ちの行列解消と回転率向上が課題になっている ✓ 人手不足が続いており、少ない人員でも同水準のサービスを維持したい ✓ クーポン・新商品の訴求を強化したいが、紙のメニュー差し替えに工数がかかっている ✓ スマートフォン・キャッシュレス利用率の高い顧客層(若年層・訪日外国人等)が多い ✓ 自社アプリの開発コストが負担になる中小規模の飲食店(外部サービス活用で解決できる) ✓ コロナ対策としてだけでなく、アフターコロナも有効な顧客体験改善の施策を検討しているモバイルオーダーの導入判断で最も重要なのは「自店の客層がスマートフォンに慣れているか」という1点です。高齢者・スマートフォン非保有者が主要客層の業態では、モバイルオーダー一本化は顧客離脱につながります。その場合も「モバイルオーダー+紙メニュー・口頭注文の併用」という段階的な移行設計で、幅広い客層に対応しながら導入できます。