GGROWTH INTELLIGENCE経営に、次の一手を。

vol.33

組織・人材戦略2026.10.20約3分

ジョブ型で人を雇うと、会社と人の関係はどう変わるのか

縛られるのは会社だけではない。互いを何で選び合うかを、仕事ごとに決める

大村益次郎 × 高杉晋作 × アンリ・ファヨール × 大原孫三郎

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職務記述書をつくり、等級表を差し替えれば、ジョブ型人事は動き出す。そう考えて制度を入れたものの、導入後の運用でつまずく企業が少なくありません。今回の題材は、全社に一斉導入するかを問う前に「どの職務に、何の目的で入れるか」を決めるべきだと説く記事です。仕事の中身で人を集めると、会社の中で何が起きるのか。今宵は、兵学書を訳せる腕だけで雇われた医者出身の大村益次郎、家柄を問わず人を集めて奇兵隊をつくった高杉晋作、経営管理の原則を体系化したアンリ・ファヨール、働く人の疲れや暮らしを研究所に調べさせた大原孫三郎の四人が、それぞれの経験から語ります。

今宵の賢人たち

  • 大大村益次郎腕で雇われた専門家1824–1869。周防の村医の家に生まれ、適塾で蘭学を学んだ。兵学書の翻訳の腕で宇和島藩・幕府・長州藩に雇われ、長州の軍制改革を担った。のちに新政府の兵部大輔
  • 高高杉晋作別の入口をつくった人1839–1867。長州藩士。1863年に、家柄を問わず力量で人を集める奇兵隊をつくった
  • フアンリ・ファヨール分けることと、動かさないこと1841–1925。フランスの鉱山技師・経営者。経営管理の原則を体系化した
  • 原大原孫三郎測らせ、手元に置いた1880–1943。倉敷紡績の社長。寄宿舎や病院を整え、倉敷労働科学研究所(1921年)を設けて働く人の疲れや暮らしを調べさせた

対談本編

実線の下線↗は元記事の該当箇所(別タブ)、点線の下線は下の「発言の背景にある出来事」へ移動します。

司会

今日は「ジョブ型は『制度』を入れても機能しない」という記事を題材にしたいと思います。全社に一斉に入れる前に、どの職務に、何の目的で入れるかを決めるべきだ——という主張です。では、仕事で人を集めると、会社と人の関係はどう変わるのでしょうか。まず大村さん、お願いします。

大村益次郎

私はもとは村の医者です。オランダ語の兵学書を訳せる腕だけで、宇和島藩、幕府、長州藩と、雇い主を変えながら働いてきました。家柄の順番の中に、その仕事ができる人がいなかったからです。

司会

腕を買われて雇われた人は、腕を生かせる所へ移っていくのですね。仕事の中身で人を採るなら、その人もまた、仕事の中身で会社を見ていると考えておくべきなのでしょう。では、そうした人を社内に迎えると、何が起きるのでしょうか。高杉さん。

高杉晋作

わしは、家柄を問わず力のある者を集めて奇兵隊をつくった。ところが、家柄のある侍だけで組んだ藩の隊とは互いに見下し合い、ついには斬り合いで死人まで出た。わしは責任を問われ、隊の長を外された。こじれたのは待遇の差ではない。互いを見る目の差だった。

司会

制度の違いより先に、人の見方が分かれるのですね。記事は、職務を限定すると異動の自由を失うと注意を促します。ファヨールさんはどうお考えですか。

アンリ・ファヨール

私は管理の原則に、仕事を分けることと並べて、職員の安定を挙げました。仕事を覚えるには時間がかかり、覚える前に動かせば役に立たないからです。動かす自由を手放すのは、損ばかりではありません。覚える時間を買うことでもあります。

司会

最後に大原さん。決めた基準は、どう扱うべきでしょうか。

大原孫三郎

私は研究所の学者に、働く人の疲れ方を調べさせました。けれど、最初の結果は外に出させなかった。測ったのは学者でも、使い方を決めたのは私です。手元に置いたままの基準は、社長の都合で動きます。これは私の失敗です。

司会

四人の話をまとめます。大村さんは腕で雇われ、腕で雇い主を変えてきました。高杉さんの隊は、待遇より先に、互いを見る目の違いでぶつかりました。ファヨールさんは、人を動かさないことを、覚える時間を買うことだと考えました。大原さんは、手元に置いた基準は社長の都合で動くと、自分の失敗から語りました。記事は、ジョブ型を、会社が異動の自由を手放す仕組みとして描きます。四人の話から見えてくるのは、縛られるのは会社だけではないということです。ジョブ型をどこに入れるかは、会社と社員が互いを何で選び合うかを、仕事ごとに決めることなのだと思います。

対談から読み解く、4つの軸

なぜこの四人だったのか。各人がどの論点を担っているかを、人選の設計とあわせて示します。

  • 大村益次郎:腕で雇われた専門家

    記事の「専門人材の獲得」を、雇われる側から照らす役です。兵学書を訳せる腕だけで、宇和島藩・幕府・長州藩と雇い主を変えてきた経験から、仕事の中身で採った人は、仕事の中身で会社を見ていることを示します。

    理論: 長州藩の軍制改革(諸隊を正規軍に組み入れ、新しい銃と戦術で鍛え直した)

  • 高杉晋作:別の入口をつくった人

    記事の「公平な運用の壁」の正体を示す役です。家柄を問わず集めた奇兵隊が、家柄のある侍の隊と衝突した教法寺事件(1863年)から、こじれるのは待遇の差より、互いを見る目の差だと語ります。

    理論: 身分を問わず力量で人を集める隊の編成

  • アンリ・ファヨール:分けることと、動かさないこと

    記事が「失うもの」として描く異動の自由を、別の側から見る役です。分業と並べて「職員の安定」を原則に挙げた理由から、動かす自由を手放すことは、覚える時間を買うことでもあると示します。

    理論: 管理の14原則(分業、権限と責任、職員の安定ほか)

  • 大原孫三郎:測らせ、手元に置いた

    記事の「職務評価を公開する」に、なぜ公開が要るのかを自分の失敗から与える役です。研究所に働く人を調べさせながら、最初の結果は外に出させなかった経験から、手元に置いた基準は社長の都合で動くと語ります。

    理論: 倉敷労働科学研究所による労働環境の調査

ジョブ型とは、会社と社員が互いを選び合う関係に変えること

ジョブ型人事は、仕事の中身を先に決め、そこに合う人を充てる仕組みです。記事は、職務を限定すると会社が自由に人を異動させにくくなる点を、導入時の注意として挙げています。対談の四人の話を合わせると、変わるのは会社の側だけではないことが見えてきます。仕事の中身で選ばれた人は、仕事の中身で会社を選びます。入口の違う人が並べば、まず互いの見方がぶつかります。人を動かさないことは、仕事を覚える時間を生みます。そして決めた基準は、社内に示して初めて約束として働きます。ジョブ型を入れることは、制度の入れ替えではなく、会社と社員が互いを何で選び合うかを、仕事ごとに決め直すことだと言えます。

学びの読書案内

  • 大村益次郎

    長州藩の軍制改革(諸隊を正規軍に組み入れ、新しい銃と戦術で鍛え直した)

    長州藩の軍制改革(1865年〜)

    著作・資料を探す ↗

  • 高杉晋作

    身分を問わず力量で人を集める隊の編成

    奇兵隊の結成(1863年)

    著作・資料を探す ↗

  • アンリ・ファヨール

    管理の14原則(分業、権限と責任、職員の安定ほか)

    『産業ならびに一般の管理』(1916)

    著作・資料を探す ↗

  • 大原孫三郎

    倉敷労働科学研究所による労働環境の調査

    倉敷労働科学研究所の設立(1921年)

    著作・資料を探す ↗

発言の背景にある出来事

  • 大村益次郎

    「オランダ語の兵学書を訳せる腕だけで」

    村の医者から兵学者へ

    周防の村医の家に生まれ、大坂の適塾で蘭学を学んだ。オランダ語の兵学書を訳す腕を買われて宇和島藩、幕府の講武所、長州藩に雇われ、1865年から長州藩の軍制改革を担った

    ↑ 本文の発言に戻るWikipedia「大村益次郎」 ↗

  • 高杉晋作

    「斬り合いで死人まで出た」

    奇兵隊と教法寺事件

    1863年6月、高杉は家柄を問わず力量で人を集める奇兵隊を結成した。同年8月、家柄のある侍で組んだ藩の撰鋒隊と互いの見下し合いから衝突し、教法寺で死者が出た。高杉は責任を問われ、奇兵隊総督を罷免された

    ↑ 本文の発言に戻るWikipedia「教法寺事件」 ↗

  • アンリ・ファヨール

    「仕事を覚えるには時間がかかり」

    管理の14原則と「職員の安定」

    1916年の『産業ならびに一般の管理』で、ファヨールは分業・権限と責任などとともに「職員の安定」を原則に挙げた。仕事を覚えるには時間がかかり、覚える前に入れ替えると役に立たない、というのが理由だった

    ↑ 本文の発言に戻るWikipedia「アンリ・ファヨール」 ↗

  • 大原孫三郎

    「最初の結果は外に出させなかった」

    倉敷労働科学研究所

    1920年夏、大原は学者に紡績工場の働き方の調査を頼み、翌1921年に倉敷労働科学研究所を設けた。研究所の学者の回想によれば、大原は最初の調査結果の公表を認めなかった。研究はのちに学術誌で公刊された

    ↑ 本文の発言に戻るWikipedia「大原孫三郎」 ↗

本連載は、各氏の原著・公開されている理論解説に基づき、現代の経営課題に合わせて再構成した架空の対談コンテンツです。発言はGROWTH INTELLIGENCE編集部による創作を含みます。

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