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経営基盤/業務改革

中期経営計画は「作る」ではなく「PLに紐づける」ことで機能する—課題起点型・シナリオ起点型、2つのアプローチと取り組みの定量化5ステップ

2026.09.30GROWTH INTELLIGENCE 編集部

中期経営計画を策定しているものの、各部門の数値目標を単に取りまとめた計画にとどまり、事業戦略や具体的な施策と十分に結びついていない企業は少なくありません。本来、経営企画室は経営陣の意向を踏まえながら企業の中長期的な方向性を整理し、その実現に向けた戦略と実行計画を設計する役割を担います。しかし実際には、広報や秘書業務などを兼務しているケースも多く、戦略立案機能が十分に発揮されていない状況も見受けられます。その結果、中期経営計画が現場の行動指針として機能せず、管理会計の指標と実際の施策が紐づいていないという問題が生じます。本記事では、こうした課題を踏まえ、中期経営計画を策定する際の基本的な考え方と進め方を整理しています。具体的には、現状分析やマネジメント層へのヒアリングを通じて経営課題を抽出し、事業戦略とアクションプランを定量指標と結びつけながら計画を構築していくプロセスを紹介しています。

1|結論—今すぐ取るべき経営判断

弊社が考える経営企画室の本来の役割は「経営陣の意向を汲み取りながら会社の中長期的な経営方針を定め、ゴールまでのプランを立案すること」です。その最も大事なミッションが中期経営計画の立案です。しかし多くの企業では、各部門から中長期目標をインプットしてそれを纏めるだけという進め方で中期経営計画が作られており、管理会計の指標と施策が紐づいていないという問題が起きています。中期経営計画は「作成すること」が目的ではありません。事業戦略とアクションプランが定量的な指標(KGI・KPI)を持って紐づき、各部門がアクションプランを遂行することでPL(損益計算書)が改善されるという一本の線を設計することが、中期経営計画の本質です。

中期経営計画の立案において難しさを感じる経営者は多く、決算月が近づくにつれてコンサルファームへの相談が増加する傾向があります。課題はさまざまで、M&Aを多数実施している企業・役員が中期的なビジョンを持っていない・そもそも中期経営計画の必要性を感じていないなどが挙げられます。一方で、実際に中期経営計画を必要としているのは現場サイドであることが多いのも事実です。経営者が中期経営計画を作ることと、その計画が現場を動かすことの間にある距離を埋めることが、経営基盤の強化の核心です。

2|なぜ「施策とPLの紐づけ」が中期経営計画の核心なのか

「計画はある」のに業績が変わらない組織の構造的問題

中期経営計画の策定後も業績が変わらない組織に共通するパターンが2つあります。第一に「事業戦略に紐づかないまま個別にアクションが実行される」状態です。各部門が独自の施策を進めているが、それが全社のKGIにどう貢献するかが不明確なため、頑張っているが結果が見えません。第二に「施策とPLが連動していない」状態です。施策を実行しても売上・コスト・利益率のどこにどのように影響するかが定義されていないため、PDCAが機能しません。これらを解決するのが、事業戦略と定量指標の紐づけを経営企画室が取り纏める役割です。もちろん全てがロジックツリーのように因数分解できるわけではありませんが、「何の指標にインパクトを与えるのか」「それによってKGIはどの程度改善されると見込んでいるのか」を設定することで、地に足のついた中期経営計画が完成します。

3|実践事例—産業用機器メーカーのV字回復プロジェクト

売上100億円規模の地方に本社を構える産業用機器メーカー(開発・販売)において、売上のV字回復を目的としたプロジェクトにPMとして参画した事例を紹介します。売上の9割以上はグローバルであり、販売代理店網を中心とした販売形態を取っていたため、自社に情報が集約されない状態が続いていました。代理店の声だけをベースに機器を開発・販売していた結果、市況の変化に対応できず、売上が上下を繰り返しながら下降する状況にありました。【課題の発見】クライアントには代理店に対する販売実績データのみで、各国の市場環境は把握されていませんでした。子会社を有していたが連結されておらず、グループ全体の利益率が見えない状態。自社の利益率も想定で行っており、現実と乖離している実態がありました。 【対策】販売実績データとデスクリサーチをベースにマネジメント層へのヒアリングを実施。「なぜこの国は前年比xx%も売上が下がったのか」「この国と比べて市場規模は大きいか」など、実務を行う中で掴んでいる市場環境への感覚を取りまとめ・定量化する作業から着手しました。 【成果への道筋】10の取り組みテーマを抽出・優先順位付けを実施。情報基盤の構築(システム導入ではなく仕組みでカバー)→事業戦略・代理店販売戦略の策定→数カ年の売上・コスト目標とKPI・アクションプランの設計→マーケティング戦略の策定→PDCAサイクルの仕組み化という順序で中期経営計画を実装しました。

4|実行のポイント—2つのアプローチと定量化の5ステップ

中期経営計画立案の2アプローチ—自社の状況で選ぶ

中期経営計画の立案方法は大きく2つのアプローチがあります。自社の状況・検討内容によって適切なアプローチが異なります。社内で議論しながら、あるいは第三者を交えて検討することが推奨されます。

比較軸 アプローチ① 課題起点型(現状から上る) アプローチ② シナリオ起点型(将来から降りる)
出発点 現状の経営状況・課題から出発。「今、何が問題か」を起点に戦略を組み立てる 業界の将来像・理想像から出発。「将来、どうなるべきか」を起点に戦略を逆算する
主なプロセス ①マネジメント層へのヒアリングで課題・根本原因を抽出 ②課題を整理・優先順位付けしてタスクフォースを立ち上げ ③タスクフォースごとにゴールを設定し中期経営計画に紐づける ①PEST分析で外部環境の将来変化を把握しシナリオを策定 ②シナリオ基にカスタマージャーニー・バリューチェーンのあるべき姿を策定 ③現状とのGAPを把握し、GAPを埋める取り組みを検討 ④取り組みをPLへの定量的インパクトに落とし込み ⑤ロードマップ(短期・中期・長期)を策定
主な分析手法 マネジメント層へのヒアリング・デスクリサーチ・販売実績データ分析。現場の「感覚」を定量化する作業が中心 PEST分析・シナリオプランニング・カスタマージャーニー・バリューチェーン分析。業界のエキスパートインタビューで補強することも有効
向いているケース 現状の課題が明確で緊急度が高い場合。V字回復・業績立て直しが目的の場合 現状の市場環境を正しく把握したい場合。将来の姿を検討したい・社内での検討が本当に正しいか第三者に確認したい場合
定量化の考え方 各課題→施策→KPI→PLへのインパクトの連鎖を設計。「この取り組みが完了した時、売上がxx%増加/コストがxx%低減」の形で設定 各取り組みが「PLの何にヒットするか」を起点に定量化。「取り組み完了→●●が実現→売上xx%増加/コストxx%低減」の因果関係を設計

アプローチ①の核心:マネジメント層ヒアリングの設計

課題起点型アプローチでは、マネジメント層へのヒアリングが最重要プロセスです。ヒアリングは「管掌業務の理解」「基本戦略の優先順位」「課題認識」「強みと足かせ」「経営の役割」の5領域をカバーすることで、各マネジメントが抱えている課題・その大きさ・根本原因を体系的に把握できます。

領域 主要なヒアリング項目(アプローチ①:課題起点型)
管掌業務 管掌業務は何か・体制はどうなっているか・日々の業務ルーティーンは・定期的な会合の頻度と主なアジェンダは何か・各種戦略や方針の決定の仕組みはどのようになっているか
基本戦略 従来の基本戦略(製品開発・販売戦略・受注生産など)は今後も死守すべきか・従来の主要戦略の中で優先順位をつけると上位3つは何か・今後重視すべき主要戦略の上位3つは何か
課題認識 現在、自社が直面している最大の課題は何か・その課題はいつ頃から認識されているか・その課題に対する処方箋はすでに準備できているか・このまま放置するとどうなりそうか
強みと足かせ 自社の強みは何か・その強みをさらに強化するために何をすべきか・各種変化に対応していくために一番大きな足かせは何か(情報収集の不備・施策企画力・意思決定力・実行力など)
経営の役割 経営が果たすべき最も重要な役割は何か・現在必ずしも十分に発揮できていない役割は何か・何が障害になっていて解決施策はあるか

取り組みの定量化5ステップ—施策をPLに紐づける

2つのアプローチのいずれを選んでも、施策をアクションレベルで洗い出した後に「PLへの定量的な紐づけ」を行うことが中期経営計画を機能させる必須要件です。

STEP 工程 内容 経営上の意義
① 事業戦略の方向性を決定 課題起点型:課題→施策を定める シナリオ起点型:GAPを埋める施策を決定する 施策が「なんとなく良さそう」のレベルに留まる段階。次のステップで定量化しなければ計画として機能しない
② PLへの影響を特定する 「この取り組みが完了した時、PLの何にヒットするのか」を問う。売上増加・コスト低減・利益率改善のいずれに作用するかを明確化する 施策とPL指標の連動関係を定義する最重要ステップ。この設計なしには「施策を実行したが業績に変化なし」という状態が生まれる
③ KGI・KPIを設定する 「取り組みが完了した時、●●が実現されており、結果として売上がxx%増加/コストがxx%低減」という形で設定する。KGIに向けたKPIをロジックツリーで因数分解する 全ての施策がKGIに紐づいていることが前提。紐づかない施策は計画から除外するか優先度を下げる判断の根拠となる
④ 各部門の取り組みとPLを連動させる 営業部門・生産部門・人事部門など各部門の施策が自社のPLにどのようなインパクトを与えるかを検討する。部門ごとのKPIがKGIに連鎖する構造を設計する 「地に足のついた中期経営計画」の完成。各部門の日常業務とPL指標が直結することで、全社員が中期経営計画の実現者になる
⑤ PDCAサイクルを仕組み化する 事業戦略に紐づく形でマーケティング戦略を策定し、KGI・KPI・アクションプランをモニタリング・検証できるPDCAサイクルの仕組みを構築する 中期経営計画は策定で終わりではなく、定期的なモニタリングと修正が不可欠。PDCAの仕組みなしには計画が「絵に描いた餅」になる

5|よくある誤解—中期経営計画が機能しない経営判断のパターン

誤解① 「各部門から目標をインプットしてまとめれば中期経営計画になる」 各部門からの積み上げで作られた計画は、全社のKGIと部門施策の間の論理的な連鎖が欠けていることが多く、「管理会計の指標と施策が紐づいていない」という問題が生まれます。中期経営計画は「部門目標の集積」ではなく、「全社KGI→事業戦略→部門施策→個人アクション」という一本の論理的な連鎖として設計されなければなりません。

誤解② 「中期経営計画は作ることが目的だ。作れば現場は動く」 中期経営計画を策定しても「施策とPLが紐づいていない」状態では、各部門が独自の判断で動き、全社の業績改善につながらない施策にリソースが費やされます。計画は策定した後のモニタリングとPDCAのサイクルを仕組み化することで初めて機能します。「作成する」から「運用する」への移行が中期経営計画の本来の目的です。

誤解③ 「中期経営計画の立案は経営者だけが考えれば良い」 経営者だけが中期経営計画を考え、それを現場に下ろすトップダウン型だけでは、現場の実態と乖離したリアリティのない計画になります。実際に中期経営計画を必要としているのは現場サイドであることが多く、マネジメント層へのヒアリングを通じて現場の課題・感覚・強みを計画に反映させることが、計画の実行可能性と効果を高めます。

6|経営判断チェックリスト—今やるべきか否かの判断軸

中期経営計画の見直し・立案を優先すべき企業の条件

  • 中期経営計画が存在するが、各部門の施策とKGI(売上・利益率など)の数値がどのように連動しているかを明確に説明できない
  • 各部門が独自の目標を持って活動しているが、それが全社のKGIにどう貢献しているかが不明確になっている
  • 中期経営計画は作成したが、定期的なモニタリングとPDCAのサイクルが整備されていない
  • 決算が近づくたびに数字の乖離に驚いており、その原因が計画段階から定量的に分析されていない
  • 役員・経営層が中期的なビジョンを共有しておらず、戦略の方向性が部門間で統一されていない

今やるべきかの判断軸

中期経営計画が「作られているが機能していない」状態は、経営基盤の最大の脆弱性です。施策とPLが紐づかない計画は、どれだけリソースを投下しても業績改善が見えにくく、経営判断の精度も低下します。産業用機器メーカーの事例が示すように、マネジメント層のヒアリングを起点に課題を定量化し、情報基盤を構築した上で事業戦略・KPI・アクションプランを連動させることで、V字回復という成果につながります。中期経営計画の立案・見直しは「いずれ必要な時期にやる」ではなく、「今の経営基盤を機能させるために今すぐ着手する」べき課題です。

やらない場合のリスク

中期経営計画が機能しない状態を放置する企業が直面するリスクは3層構造です。第一に、各部門が独自判断で動くことで全社リソースが最優先課題に集中せず、改革の速度が競合に劣後するリスク。第二に、施策とPLの連動がないため「やっているが結果が出ない」という状態が続き、組織のモチベーションが低下するリスク。第三に、市況の変化や業績の下振れに対して対応策の根拠がなく、経営判断が場当たり的になるリスクです。

7|経営者への一言

中期経営計画は「書類」ではなく「経営の設計図」だ。施策がPLに紐づかない計画は存在しないのと同じ—今すぐ、一本の線を引き直せ。

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