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M&A対象を見極める市場分析の実務—化粧品市場を例に学ぶ、ビジネスDDの4ステップフレームワーク

2026.09.09GROWTH INTELLIGENCE 編集部

M&Aを検討する際、財務や法務の確認だけで対象企業の魅力を判断していないでしょうか。買収後の収益性を見極めるには、ビジネスデューデリジェンスの一環として市場分析を行うことが欠かせません。市場規模の推移を見れば、参入すべき成長市場かどうかを把握でき、PEST分析では外部環境変化の影響を整理できます。さらに、バリューチェーンを捉えることで業務構造や主要ステイクホルダーを把握でき、プレイヤー分析を通じて競合との位置関係も見えてきます。記事では化粧品市場を例に、コロナ禍による市場変化、スキンケア中心の市場構造、国内主要プレイヤーのシェア、韓国化粧品の流入、大手各社の海外企業買収の動向まで踏まえています。その上で、市場分析は対象会社の属する市場の魅力度と、市場内でのポジションの両方を判断する材料になると整理しています。外部環境の変化を前提に、どの市場へどう参入するかを見極める視点が、M&Aの成否を左右します。本記事では、市場分析がM&A判断にどう役立つかを解説しています。

1|結論—M&Aの意思決定は「市場分析」の質で決まる

M&Aにおいて買い手が行うビジネスDDの核心は、対象会社が属する市場の成長性と、その市場における対象会社のポジションを客観的に評価することです。この分析を省略した投資判断は、構造的なリスクを見落とします。市場規模の把握・PEST分析・バリューチェーンの整理・プレイヤー分析という4つのステップが、判断の精度を決定します。M&Aを実行する際、買い手企業は財務DD・法務DD・ビジネスDDの3種類のデューデリジェンスを必ず実施します。このうちビジネスDDの目的は、対象会社が属する市場の実態を把握し、M&A後の収益性を客観的に判断することです。

市場分析の目的は大きく2つあります。第一に、対象会社が属する市場そのものの傾向—成長市場か縮小市場かを判断することです。成長市場への参入はM&Aの意義を高め、縮小市場への参入は損失リスクを高めます。第二に、対象会社の市場内ポジションを確認することです。誰が競合になるのか、M&A後に競争優位を構築できるかを見極めます。以下では、化粧品市場を具体例として、ビジネスDDにおける市場分析の4ステップを解説します。

2|なぜ市場分析が投資判断の前提なのか—省略できない構造的理由

M&Aの失敗原因の多くは、財務面のリスクではなく、事業面の前提条件の見誤りにあります。対象会社の業績が良好であっても、その市場が構造的に縮小しているのであれば、買収後の成長は見込めません。逆に、一時的に業績が落ち込んでいる会社でも、市場の回復見通しが明確であれば、投資機会として評価できます。市場分析は「対象会社の現状」だけでなく「対象会社が泳ぐ海の状態」を評価するものです。海が縮小していれば、どれだけ優秀な魚でも成長は制限されます。M&A後の収益性は、この市場構造の理解なしには判断できません。

化粧品市場を例に取ると、2019年まではCAGR2.5%で堅調に成長していましたが、2020年にはコロナウイルスの影響で約10%の減少見通しとなりました。この数字だけを見れば「縮小市場」と判断しかねませんが、減少の原因が構造的なものか一時的なものかを切り分けることが重要です。コロナという外部要因による一時的な落ち込みであれば、収束後の回復を見込んだ投資判断が成立します。こうした因果の分解こそ、市場分析が担う役割です。

Step 1 市場規模の把握—成長市場か縮小市場かを判断する

市場分析の出発点は市場規模の推移です。CAGR(年平均成長率)を確認することで、市場の成長トレンドと速度を把握します。化粧品市場の場合、2019年までのCAGRは2.5%と安定した成長を示していました。2020年の約10%減少はコロナウイルスによる外出頻度の低下と訪日外国人の入国規制が主因です。この因果関係を踏まえれば、コロナ収束後の市場回復は十分に見込めます。また、製品カテゴリ別に見ると、スキンケア製品が売上シェアの47.2%を占めており、市場の約半分がこのカテゴリに集中しています。

Step 2 PEST分析—外部環境が市場にもたらすリスクと機会

PEST分析は、市場の外部環境をPolitics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術)の4軸で整理するフレームワークです。市場が外部環境変化の影響を受けやすい構造かどうか、また今後の成長ドライバーは何かを判断します。化粧品市場のPEST分析が示す最重要論点は2つです。第一に、マスク着用習慣が定着した場合、口元に使用するメイクアップ用品の売上回復は困難です。これは、メイクアップ製品に依存した収益構造を持つ企業の将来リスクとして直接評価すべき事項です。第二に、インターネットやDXの普及による販売戦略の変化です。ニューノーマルに対応した販売チャネルを構築できる企業とそうでない企業の間で、M&A後のパフォーマンスに明確な差が生じます。IT企業との協業実績やデジタル対応力は、対象会社の評価項目として組み込む必要があります。

Step 3 バリューチェーンの把握—統合効果と内製化余地を見極める

バリューチェーンの把握は、M&A後の統合効果(シナジー)を評価するうえで不可欠です。対象市場のビジネスがどの業務プロセスで構成されているか、どのステークホルダーが関与しているかを明確化することで、外注業務の内製化余地やコスト削減の余地を判断できます。化粧品メーカーのバリューチェーンは「研究・開発」「生産」「輸送」「営業」「販売」の5段階で構成されます。資生堂などのホールディングス化した大手メーカーは、このフロー全体を自社グループ内で完結させています。一方で、原材料・容器の調達や販売においては外部ステークホルダーとの連携が残っているケースもあります。特に、外注していた業務の内製化を戦略目的として設定している場合、バリューチェーン上のどの機能を対象会社が担っているかを精緻に確認することが重要です。買収対象の機能が自社に欠けているものを補完するのか、あるいは重複するのかによって、統合シナジーの性質が変わります。

Step 4 プレイヤー分析—競合構造と新規参入リスクを定量的に評価する

市場の競合構造を定量的に把握することで、M&A後に対象会社がどのポジションを取れるかを判断します。主要プレイヤーのシェアと市場戦略を確認することが、差別化戦略の設計に直結します。2020年の化粧品市場においては、資生堂が国内市場の半分近くのシェアを持ち、独走状態にあります。コーセー・花王・ポーラ・オルビスが続く構造であり、新規参入にあたっては、これらの主要プレイヤーとの明確な差別化が前提条件となります。
国内化粧品市場は資生堂を頂点とした寡占構造です。シェア上位4社が市場を押さえている以上、M&Aによる参入を検討する場合は「どのセグメントで、どのプレイヤーと競合しないか」の設計が投資の成否を左右します。

▶ 韓国勢の台頭—無視できない外部競合圧力 国内プレイヤーの分析と同時に、海外からの競合圧力も評価が必要です。韓国からの化粧品輸入額は2015年から2019年にかけて3倍以上増加しています。韓国市場ではM&Aや業務提携が活発であり、韓国政府も化粧品製造に注力して2022年までに世界第3位の化粧品輸出国になることを目標に掲げていました。今後、さらに多くの韓国製品が国内市場に流入することが予想されます。この外部競合圧力は、国内化粧品企業への投資を検討する際の重要リスク要因です。特に中価格帯の市場ポジションを持つ企業は、韓国製品との競合に直接さらされる可能性があります。

3|国内化粧品大手のM&A動向—投資戦略の方向性を読む

市場分析の最終段階として、業界内のM&A動向を分析することで、主要プレイヤーが何を課題と認識し、どの方向に投資しているかを把握できます。これは市場の将来変化を読む材料であると同時に、対象会社の戦略的価値を評価する補助線でもあります。2018年以降、国内化粧品大手が実施したM&Aの傾向は明確です。大手メーカーは海外企業の買収を通じた事業拡大を優先しており、その背景には日本国内の人口減少に伴う将来的な市場縮小への備えがあります。大手がバリューチェーンを既に統合済みであることは、中小規模の対象会社とのM&Aにおいて、事業拡大よりも特定機能の取得(特定チャネルの確保、特定製品カテゴリの獲得、研究開発能力の補完など)を目的とした投資の方が現実的であることを示しています。

4|投資判断でよくある失敗—市場分析を誤る3つのパターン

失敗① 「市場縮小=投資不可」と短絡的に判断する 縮小の原因が一時的な外部要因(コロナ等)か構造的な需要消滅かを区別しないと、回復局面で安く買える好機を逃します。因果を分解することが先決です。

失敗② 「国内プレイヤー分析」だけで競合リスクを評価する 化粧品市場における韓国勢の台頭のように、輸入・海外勢からの競合圧力を無視すると投資後に想定外の競争激化に直面します。プレイヤー分析は国内外を包括して実施すべきです。

失敗③ 「バリューチェーン分析を省略」してシナジーを過大評価する M&A後の統合コストと内製化余地はバリューチェーンの把握なしには算出できません。シナジーの数字だけを先行させた計画は、統合フェーズで必ず修正を余儀なくされます。

5|経営判断チェックリスト—この市場分析フレームが有効な場面

✓ M&Aや業務提携の候補先が属する市場の収益性を評価したい ✓ 買収対象の市場ポジションと競合リスクを定量的に把握したい ✓ 自社が新規参入する市場のバリューチェーンと主要プレイヤーを整理したい ✓ ビジネスDDにおいて市場分析の抜け漏れをなくしたい ✓ 競合他社のM&A動向から、市場の将来変化の方向性を読み取りたい

市場分析は「やるべきか否か」ではなく、「4つのステップを体系的に実施できているか」が問われます。規模の把握だけで終わる分析は不十分であり、PEST・バリューチェーン・プレイヤーの3つを加えて初めて、投資判断に耐えうる市場像が描けます。化粧品市場の事例が示すように、同じ「縮小市場」という事実であっても、その原因と回復可能性を分解することで、まったく異なる投資判断に至ります。分析の深度が意思決定の質を決めます。

6|経営者への一言

M&Aの成否は買収価格の交渉力ではなく、市場構造を正しく読んだかどうかで決まる。4ステップの市場分析は、投資判断を「直感」から「根拠ある確信」に変える唯一の手段です。

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