
RE100は「大企業だけの話」ではない—取引先の再エネ目標が届く前に、使う側の中堅・中小企業が決めておく再エネ調達手段の選び方
2026.11.02GROWTH INTELLIGENCE 編集部
1|結論—今すぐ取るべき経営判断
主要な取引先が再エネ目標を掲げているなら、要請を待たずに、次の二つを今のうちに把握してください。「自社の電力使用量と再エネ比率」と、「取引先が求める基準と期限」です。そのうえで、まず使う電気そのものを減らす省エネを進めます。次に、すぐ使える手段(再エネ電力メニューや証書)で当面の要請に応えます。並行して、数年かけて効いてくる手段(屋根上の太陽光や長期のPPA)を検討します。これが、費用を抑えて取引を守る順序です。たとえれば、すぐ入居できる賃貸に住みながら、数年がかりの家づくりを進めるようなものです。
先に動くか待つかの分かれ目は、取引先の調達基準がどこまで具体的かです。年限と手段の条件まで示しているなら、待つ理由はありません。まだ把握を求める段階でも、棚卸しにはほとんど費用がかかりません。避けたいのは、要請が届いた年に証書だけで数字を合わせることです。制度の見直しで扱いや価格が変わるおそれがあり、効果の説明もしにくいからです。
2|なぜ中堅・中小企業に再エネが求められるのか—大企業の目標がサプライチェーンに広がる構造
RE100は、2014年に始まり、国際NGOのClimate Groupが運営する枠組みです。加盟企業は2026年3月末時点で世界443社、日本95社です。対象は原則として年間消費電力量100GWh以上の企業で、日本企業は50GWh以上です。例外的な加盟の道もあります。100%の目標年は2025年3月に2050年から前倒しされ、遅くとも2040年です(出典:環境省「RE100について」、2026年6月)。
対象外の企業向けには「再エネ100宣言 RE Action」があります。目標年は遅くとも2050年です。参加は385団体ですが、2025年度は31団体が加入、36団体が脱退し、2024年9月以降は横ばいです(出典:再エネ100宣言 RE Action協議会「2025年度事業報告書」、2026年6月)。
加盟企業が自社の電気を再エネにしても、取引先の工場の電気は残ります。RE100の達成そのものに取引先の電気は含まれませんが、自社の再エネ化が進むほど、サプライチェーン(取引のつながり)全体の排出に占めるその比重が上がり、企業が別に定めるサプライチェーンの目標を通じて、取引先への要請に向かいます。
大手の動きはすでに具体的です。Appleは2022年10月、主要な製造パートナーの評価に、Apple向けの事業を100%再エネ電力でまかなうことなどを含めると発表しました。200社超のサプライヤーが、同社向けの生産にクリーン電力を使うと約束済みでした(出典:Apple、2022年10月)。Microsoftは2024年5月、規模の大きい一部のサプライヤーに、2030年までに同社向けの製品・サービスを100%カーボンフリー電力で提供するよう求めると発表しました(出典:Microsoft、2024年5月)。
国内では、日本商工会議所・東京商工会議所の2025年度調査で、回答した中小企業の21.3%が、取引先から脱炭素に関する要請を受けています(出典:日本商工会議所、2025年7月)。ただし要請の内訳は同調査では示されておらず、再エネ調達を求められた割合は分かりません。取り組みの中心は省エネ設備への更新(35.7%)で、脱炭素の最大の課題は費用負担(64.5%)です。
3|再エネ調達手段の比較—追加性・価格の安定性・初期投資・契約期間
| 手段 | 追加性(新たな再エネを増やすか) | 価格の安定性 | 初期投資 | 契約期間の目安(個別の契約で異なる) |
|---|---|---|---|---|
| 自家消費(自社で設備を保有) | 高い | 高い | 大きい | 設備の寿命まで |
| オンサイトPPA(自社敷地に事業者が設置) | 高い | 高い(単価を長期固定) | ほぼ不要 | 15〜20年程度が多い |
| オフサイトPPA(離れた発電所から送電) | 新設なら高い | 比較的高い | ほぼ不要 | 長期。一定規模が必要 |
| 再エネ電力メニュー(電力会社の料金プラン) | 契約による | 料金改定に左右される | 不要 | 1年程度から |
| 証書 | 低い | 市場や相対取引で変動 | 不要 | 年単位 |
証書は、環境価値(再エネの電気であることの価値)を電気と切り離して売り買いできるようにしたものです。日本でRE100が認めるのは、非化石証書、グリーン電力証書、再エネ由来のJ-クレジットの3種類です(出典:Climate Group「RE100 Technical Criteria」、2025年3月)。FIT非化石証書(FITは、国が固定価格で電気を買い取る制度)には、日本卸電力取引所(JEPX)で1kWhあたり下限0.40円・上限4.00円の価格制限があります(2023年7月以降、出典:JEPX)。
RE100に加盟する企業自身の調達には「15年ルール」があります。2024年1月以降の電力利用から適用され、たとえば2025年分なら、2010年1月1日以降に運転を始めた(または設備を更新した)発電所から調達します。自家発電、敷地内のPPA、最初の買い手として結ぶ長期契約などは対象外で、2024年1月より前に供給を始めた契約も旧来どおり認められます(グランドファザリング)。消費電力量の15%までは、古い発電所でも構いません(出典:Climate Group、同資料)。
制度は動いています。FIT非化石証書の価格制限は、2027年度からの見直しが国の作業部会で検討されています(出典:スマートジャパン、2026年3月)。GHGプロトコルは、Scope2(購入した電気による排出量)の算定方法の改訂案について、2025年10月に意見募集を始めました。電気の使用と発電を時間単位で突き合わせる案を含み、内容は議論中です(出典:GHGプロトコル)。証書やメニューは、こうした見直しの影響を受けうる手段です。
4|事例—先行企業は手段をどう組み合わせているか
| 企業 | 取り組み | ポイント |
|---|---|---|
| イオン | 国内のイオンモール全159拠点で実質再エネ100%を達成。16拠点のソーラーカーポート(駐車場の屋根の太陽光パネル)と、92拠点への地域の太陽光からの供給を併用(出典:イオン、2026年7月) | 自家消費とオフサイト調達を拠点ごとに使い分け |
| リコー | 日本企業で初めてRE100に参加。2025年5月、福島市の営農型太陽光(農地の上にパネルを設け、下で農業を続ける発電所)から本社事業所へオフサイトPPAで供給を開始(出典:リコー、2025年5月) | 本社事業所の使用量の約5%と小規模でも、特定の発電所から調達する手段を加えた |
二社に共通するのは、一つの手段で100%を目指していない点です。ただし両社は大企業です。自社の条件への当てはめは次章で考えます。
5|進め方—再エネ調達を計画にする5ステップ
STEP1 電力の使用量と契約を棚卸しし、減らせる分を探す
拠点ごとの年間使用量、契約先と単価、更新時期、屋根や遊休地の有無を一覧にします。あわせて、空調や照明の更新で使用量を減らせる余地も確かめます。
STEP2 主要取引先の基準と期限を確かめる
取引先の統合報告書や調達方針を読みます。再エネ比率の目標年と、認める手段(証書の種類、15年ルールの扱い)を確認します。
STEP3 すぐ使える手段で当面の比率を上げる
再エネ電力メニューへの切り替えや証書の購入は、初期投資なしで今年度から比率を上げられます。ただし価格は変わるため、単年度で見ます。
STEP4 長く効く手段を検討する
屋根上の太陽光(自家消費かオンサイトPPA)を最優先に考えます。PPAは長期契約になるため、拠点の存続や移転の計画と期間を合わせます。賃貸やテナントで屋根を使えない場合は、貸主に設置を相談するか、オフサイトPPAなどを比べます。
STEP5 宣言と報告の枠組みを決める
RE100の対象外なら、RE Actionへの参加も選択肢です。国や自治体の補助事業や公共調達で加点される制度もあります(出典:再エネ100宣言 RE Action協議会「2025年度事業報告書」、2026年6月)。
6|よくある誤解—再エネ調達で判断を誤るパターン
誤解① 「証書を買えば、どの取引先の要請にも応えられる」 証書は手軽ですが、取引先が15年ルールのように発電所の古さを問う基準を自社にも課す場合、古い発電所由来の証書は認められないおそれがあります。2024年1月より前に供給を始めた契約は旧来どおりですが、新しい契約は対象です。基準を確かめないと、組み替えが必要になりかねません。
誤解② 「再エネ化は電気代が上がるだけのコストだ」 再エネ電力メニューや証書は、確かに上乗せの費用です。一方、屋根上太陽光の自家消費やオンサイトPPAは、単価を長期で固定でき、電気代の変動を抑えます。
誤解③ 「RE100に入れない規模の会社は、RE Actionで宣言すれば足りる」 RE Actionは385団体が参加していますが、2025年度は31団体が加入した一方、36団体が脱退し、費用負担を理由に抜ける団体もあります。宣言だけでは足りません。取引先が知りたいのは、加盟の有無より、自社の製品に使う電気がいつまでに再エネになるかです。
7|経営判断チェックリスト—今やるべきか否かの判断軸
再エネ調達の計画を優先すべき企業の条件
- 売上の多くが、再エネ目標を掲げる大企業との取引である
- 海外の完成品メーカーや外資系企業に納品している
- 電力使用量が大きい工場や倉庫がある
- 屋根や遊休地に、太陽光を置く余地がある
- 電力契約の更新が1〜2年以内にある
今やるべきかの判断軸
判断の中心は二つです。取引先が年限と手段の条件を示しているか、その取引先が売上に占める比重が大きいかです。どちらかに当てはまるなら、今年度中にSTEP1とSTEP2を終え、翌年度の電力契約に反映させます。
やらない場合のリスク
第一に、取引先の基準に年限が入ったとき、短期間で証書を買い集めて費用がかさみ、基準に合わない手段を選びかねません。第二に、競合のサプライヤーが先に再エネ化を示し、取引で不利になります。第三に、電気代の変動を受け続けます。
8|経営者への一言
再エネは、言われてから買うものではなく、取引を守るために計画するものです。まず、自社の使用量と取引先の基準を、自分の言葉で言えるようにしてください。
参考文献
- 環境省「RE100について」(2026年6月) https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/RE100_gaiyou_20260625.pdf
- Climate Group「RE100」 https://www.theclimategroup.org/re100
- Climate Group「RE100 Technical Criteria」(2025年3月) https://www.theclimategroup.org/hubfs/RE100/PDFs/RE100%20technical%20criteria%20+%20appendices%20(15%20April%202025).pdf
- 日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)「RE100」 https://www.japan-clp.jp/climate/reoh
- 再エネ100宣言 RE Action協議会「参加要件」 https://saiene.jp/about
- 再エネ100宣言 RE Action協議会「2025年度事業報告書」(2026年6月) https://saiene.jp/wp-content/uploads/2026/06/2025年度事業報告書.pdf
- 日本商工会議所「2025年度中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」(2025年7月) https://www.jcci.or.jp/news/research/2025/0717144855.html
- Apple「Apple calls on global supply chain to decarbonize by 2030」(2022年10月) https://www.apple.com/newsroom/2022/10/apple-calls-on-global-supply-chain-to-decarbonize-by-2030/
- Microsoft「Our 2024 Environmental Sustainability Report」(2024年5月) https://blogs.microsoft.com/on-the-issues/2024/05/15/microsoft-environmental-sustainability-report-2024/
- スマートジャパン「非化石証書の上限・下限価格 2027年度から見直しへ:第112回「制度検討作業部会」」(2026年3月) https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/2603/10/news033.html
- GHG Protocol「Frequently Asked Questions: Scope 2 and Electricity Sector Consequential Accounting Public Consultations」 https://ghgprotocol.org/blog/frequently-asked-questions-scope-2-and-electricity-sector-consequential-accounting-public
- 日本卸電力取引所(JEPX)「非化石価値取引の価格制限について」(2023年7月) https://www.jepx.jp/nonfossil/outline/pdf/jepx20230710.pdf
- イオン「「イオンモール」国内全拠点で実質再生可能エネルギー100%を達成」(2026年7月、PR TIMES) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000005992.000007505.html
- リコー「リコー、脱炭素目標を見直し 気候変動対応を加速」(2024年3月) https://jp.ricoh.com/release/2024/0318_1
- リコー「リコー、グループ初となる営農型オフサイトPPA発電所からの再エネ導入を開始」(2025年5月) https://jp.ricoh.com/release/2025/0501_1
1分で鍛える意思決定 / 戦略【登録者限定】
自動車部品メーカーに樹脂部品を納める従業員250名ほどの会社に、主要な取引先から「2030年までに納入品をつくる電気を再エネに」という方針が届いた。方針に、認める手段の条件は書かれていない。工場の屋根は空いており、電力契約の更新は来年に控えている。今年度に動かせる予算と担当者は、どれか一つにしか充てられない。
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この方針に、今年度どう手を打つ?
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