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4Pだけでは差別化できない時代—「顧客参加」と「プロセス」を加えた6Pで、横並び市場を抜け出すマーケティング設計

2026.10.27GROWTH INTELLIGENCE 編集部

製品の改良と値付けの工夫だけで、競合との差は開いているでしょうか。機能は数年で横並びになります。販路はオンラインで誰にでも開かれています。広告の配信精度も、同じプラットフォーム(広告を配信するサービス)を使えば大差がつきません。マーケティングの4P(製品・価格・流通・販促)は今も必要な基本です。しかし、それだけでは「どこも同じ」に見える市場から抜け出しにくくなっています。本稿では、4Pに「顧客参加(Participation)」と「プロセス(Process)」を加えた6Pの考え方を、4C・7Pとの関係とあわせて整理します。そのうえで、LEGO Ideasやワークマンの公式アンバサダー制度など、公開情報で確認できる事例から、経営としての判断軸を示します。

1|結論—今すぐ取るべき経営判断

経営が決めるべきは、差別化の方法です。「製品と価格の改良」で戦い続けるのか。顧客に開発と発信に加わってもらい、作る過程そのものを価値にする道へ、一部でも切り替えるのか。前者は競合も同じ手段で追いかけるため、改良のたびに差が縮まります。後者では、自社と顧客のあいだに積み上がった関係と物語が競争力になります。

ただし、6Pは4Pを捨てる話ではありません。顧客参加とプロセス公開は、4Pの土台の上に重ねる二つの層です。品質が劣る製品や採算の取れない価格を、ファンの熱量で補うことはできません。まず4Pで「選ばれる最低条件」を満たし、残る差別化を顧客参加とプロセスで作ります。

もう一つの判断は、顧客に委ねる範囲です。どこまでを顧客に決めさせ、どこからを自社が決めるのか。その線を経営が引けない限り、参加の仕組みは形だけになります。

2|なぜ4Pだけでは差別化できないのか—平準化した4つの要素

4Pは、1960年代に米国の研究者E・ジェローム・マッカーシーが整理した枠組みです。問題は枠組みの誤りではなく、4つの要素それぞれで企業間の差がつきにくくなったことです。

要素 かつての差別化 現在起きていること
製品(Product) 機能・性能の差で選ばれた 部品の共通化やOEM供給(他社ブランド品の受託生産)で、主要機能は数年で横並びになる
価格(Price) 規模の経済(大量に作るほど1個あたりの費用が下がること)による低価格が武器になった 価格比較サイトや通販モールで価格がすぐに比べられ、値下げは追随される
流通(Place) 店舗網や問屋との関係が、新規参入を防ぐ壁になった 自社EC(自社の通販サイト)やモール出店で、小規模企業でも全国に販売できる
販促(Promotion) 広告予算の大きさが認知を決めた 同じ配信プラットフォームを使う限り、配信の精度だけでは差がつきにくい

4Pを顧客の視点から言い換えたのが、ロバート・ラウターボーンが1990年に示した4C(顧客価値・顧客コスト・利便性・コミュニケーション)です。サービス業向けには、B・H・ブームスとM・J・ビトナーが1981年に提案した7Pもあります。4Pに人(People)・プロセス(Process)・物的証拠(Physical evidence。店の内装や制服など、品質を判断する手がかり)を加えたものです。

枠組み 視点 加わる問い
4P 売り手 何を、いくらで、どこで、どう知らせて売るか
4C 買い手 顧客にとっての価値・負担・手軽さ・対話は十分か
7P サービス提供 誰が、どんな手順で、何を手がかりに品質を伝えるか
6P 顧客との関係 顧客を開発に参加させるか、作る過程を見せて価値にするか

4Cも7Pも、顧客を主に「提供を受ける側」として扱います。6Pの違いは、顧客を開発と発信の「担い手」として扱う点にあります。

3|6Pの全体像—顧客参加とプロセスという二つの層

なお、6Pは4Pや7Pのように、学術的に定着した枠組みではありません。4Pに欠けている視点を補うための、実務上の整理です。飲食店にたとえると、4Pは料理の味・値段・立地・宣伝です。6Pでは、常連客の提案を新しいメニューに採り入れます(顧客参加)。さらに、厨房をカウンター越しに見せ、料理ができる過程も楽しんでもらいます(プロセス)。

顧客参加(Participation)—ユーザーイノベーション

顧客参加の理論的な土台は、MITのエリック・フォン・ヒッペルが提唱した「ユーザーイノベーション」です。製品の改良や新しい使い方の多くは、メーカーではなく、課題に直面しているユーザー自身から生まれる、という考え方です(出典:Eric von Hippel『Democratizing Innovation』MIT Press、2005年)。

代表例がLEGO Ideas(ファンが製品案を投稿できる、LEGO社の公式サイト)です。ファンが自作の作品を投稿し、1万人の支持を集めると、LEGO社の製品化レビューの対象になります(出典:LEGO「What happens to my product idea after I reach 10,000 supporters?」)。製品化された場合、作者には製品の純売上(返品や値引きを除いた売上)の1%が支払われます。作者として名前も表記されます(出典:LEGO Ideas「How It Works」)。

国内では、ワークマンが2019年に公式アンバサダー制度を創設しました。発信力のある一般の愛用者を公式アンバサダー(企業が公式に任命する、発信と開発の協力者)とし、製品開発やプロモーション(販売促進の活動)に起用してきました。約50名のアンバサダーと760の製品を共同開発し、2023年にはアンバサダーを社外取締役に選任しています(出典:第5回日本サービス大賞 受賞事例集)。顧客の代表を経営の意思決定の場にまで入れた点が、一般的なアンバサダー施策との違いです。

プロセス(Process)—プロセスエコノミー

プロセスの層は、尾原和啓が『プロセスエコノミー』(幻冬舎、2021年)で示した考え方に基づきます。完成品の品質で差がつきにくい時代には、「なぜ、どうやってそれを作っているのか」という過程そのものが共感を生み、価値になる、という主張です。完成品は真似できても、作り手の試行錯誤や判断の積み重ねは真似できません。

身近な形が、クラウドファンディング(インターネットで多くの人から資金や予約を集める仕組み)です。発売前に開発の経緯を公開し、先行販売します。たとえばマクアケは、自社のサービスを「応援購入サービス」と位置づけています(出典:株式会社マクアケ 公式サイト)。買い手は完成品ではなく、作り手の挑戦にお金を払っています。

層 顧客の役割 企業が得るもの 典型的な仕組み
顧客参加 提案者・共同開発者 発売前の需要の確認、開発アイデア 投稿・投票制度、アンバサダー制度(依頼した発信は広告と明示)
プロセス 応援者・見届け人 発売前の顧客、価格以外の選ばれる理由 開発過程の公開、先行販売、制作の記録の発信

4|実行のポイント—顧客参加とプロセスを事業に組み込む進め方

STEP1 顧客に委ねる範囲と、自社が決める範囲を線引きする

最初に、製品のどの部分を顧客の提案に開くかを決めます。「提案は広く受け、採否と品質は自社が責任を持つ」という線引きを、参加者にも明示します。採用案の権利の扱いと報い方は、応募規約に明記します。

STEP2 参加者への見返りを設計する

金銭(売上に連動する報酬)、名誉(作者としての名前の表記)、影響力(自分の提案が反映される実感)のどれで、顧客の時間と知恵に報いるかを決めます。

STEP3 公開する過程と、公開しない情報を分ける

プロセス公開には、出してはいけない情報があります。原価・取引先・未確定の仕様などです。何を見せて何を伏せるかを事前に決め、発信の担当者と、公開前に承認する流れも定めておきます。依頼した発信は、広告だと分かる形にしてもらいます(広告であることを隠す表示は2023年10月から景品表示法違反。出典:消費者庁)。

STEP4 小さな製品群で1サイクル回し、成果を測る

全社一斉ではなく、一つの製品群で参加と公開を試します。測るのは、発売前の予約数、参加者の継続率、参加製品と通常製品の販売の差です。期間、運営の人手、続けるかやめるかの基準も先に決めます。数字で効果を確かめてから広げます。

5|よくある誤解—6P導入でつまずく経営判断のパターン

誤解① 「SNSで顧客の声を集めれば、それが顧客参加になる」 顧客参加は「意見を聞くアンケート」ではありません。顧客の提案が実際に製品や仕様に反映され、その結果が本人に返ってくる仕組みです。反映の仕組みがないまま声だけを集めると、「言っても変わらない」という失望を生み、かえって熱心な顧客を遠ざけます。

誤解② 「6Pのプロセスは、7Pのプロセスと同じ意味だ」 7Pのプロセスは、サービスを提供する手順を整え、品質を安定させることです。6Pのプロセスは、製品を作る過程そのものを顧客に見せ、共感や応援を価値に変えることです。前者は業務の設計、後者は価値の設計の問題です。混同すると、施策の目的がはっきりしなくなります。

誤解③ 「顧客参加やプロセス公開は、ファンの多い大企業だけのものだ」 熱量の高い顧客が数十人いれば、仕組みは始められます。むしろ中小企業は、作り手と顧客の距離が近く意思決定も速いため、提案を製品に早く反映できます。必要なのは顧客の数ではなく、提案を採り入れる体制です。

6|経営判断チェックリスト—今やるべきか否かの判断軸

6Pへの拡張を優先すべき企業の条件

  • 主要製品の機能・価格が競合と横並びになり、値引き以外に選ばれる理由を説明しにくい
  • 製品を深く使い込み、改良のアイデアを自分から発信している熱心な顧客がいる
  • 製品づくりに、職人技や素材選びなど、見せることで価値が伝わる過程がある
  • 顧客の提案を製品に反映させる判断を、現場に近い単位で素早く下せる
  • 広告費の効率が下がり、既存顧客からの紹介や発信で新規顧客を得たい

今やるべきかの判断軸

判断軸は、顧客に委ねてよい領域が自社の製品にあるかどうかです。安全基準や規格で仕様が厳密に決まっている製品では、顧客参加やプロセス公開の余地は限られます。顧客との取引内容を外部に出せない受託型の事業も同じです。その場合は、4Pの精度を上げることに資源を集めた方が成果につながります。逆に、使い方や好みの幅が広く、作る過程に語れる物語がある製品なら、一つの製品群から試す価値があります。

やらない場合のリスク

第一に、4Pの改良だけで戦い続けると、機能や価格の差が縮むたびに値下げ競争に引き込まれ、利益率が削られます。第二に、広告に頼る新規獲得が続き、配信単価の上昇とともに顧客獲得の費用が膨らみます。第三に、熱心な顧客の知恵と発信力を活かす場を持たないと、先に仕組みにした競合に関係ごと顧客を奪われます。

7|経営者への一言

次の新製品で、顧客に決めてもらう部分を一つだけ挙げられるか。挙げられるなら試す時期、挙げられないなら4Pを磨く時期。

参考文献

1分で鍛える意思決定 / マーケ【登録者限定】

鋳物の調理器具をつくる従業員80名ほどのメーカー。主力の鍋は2年ほどで他社に機能を並ばれて値引き販売が増える一方、SNSには自作の使い方や改造を発信する熱心な使い手が30人ほどいる。

あなたならどうする?

値引きが増えてきた主力の鍋について、今期まず打つ手は?

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