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投資/資本戦略

通信の知財は排除ではなく6Gで稼ぐ—標準必須特許の収入は端末の台数で決まる。機能凍結の前に、知財を事業として損益で測る経営判断

2026.11.02GROWTH INTELLIGENCE 編集部

自社の知財部門を、出願費用と訴訟対応のためのコストセンター(費用だけがかかる部署)として扱っていないでしょうか。Huawei・ZTEの機器を通信網から外す動きは、各国で10年以上続き、調達先の組み替えは今も進んでいます。この流れを「特許で稼ぐ好機」と読む向きもあります。しかし排除の対象は基地局など網の機器です。標準必須特許(SEP、通信規格どおりに作ると必ず使う特許)の使用料は、規格を使う端末などの台数に連動し、排除とは別の仕組みで入ります。本稿では、排除が実際に動かすものを整理します。そのうえで、SEPライセンスと現地生産ライセンスの稼ぎ方、M&Aの失敗例、6Gの日程、技術を持つ中堅企業の進め方と評価の見直し方を順に示します。

1|結論—今すぐ取るべき経営判断

通信規格に関わる技術を持つ企業は、知財(特許などの知的財産)部門を「費用を管理する部署」から「収益を生む事業」へ変えるべきです。ただし、中国ベンダーの排除が自社の特許収入を直接増やすわけではありません。収入の入口は、規格に必須と認められる特許と、使用料を取る交渉力です。

中堅企業の最初の一手は、新しい提案を規格に通すことではありません。すでに持つ特許が規格に必須と言えるかの評価と、パテントプール(複数社の特許をまとめて、窓口一つでライセンスする仕組み)に参加するかの判断です。新規に提案するかは、6Gの日程と自社の技術の性質を見て、条件付きで決めます。

収入が出るまで数年かかるため、評価の基準も見直します。評価の基準を変えない限り、知財部門は出願を減らすことでしか成果を示せません。かといって収入だけで測ると、その間は成果がゼロです。そこで、指標を先行と遅行に分けます。先行指標は、標準化会議(規格の中身を各社で決める会議)への寄与と、必須特許としての宣言件数です。遅行指標は、ライセンス収入です。

2|排除は機器の話、SEPの収入は端末の台数で決まる

通信インフラから特定の海外ベンダーを外す動きは、一時的な政策ではありません。

国・地域 主な措置 時期
英国 5G網からの撤去期限を2027年末と決定 2020年7月
米国 新規認証を禁止。撤去・置換に約50億ドルを措置 2022年11月、2024年12月
EU 高リスクベンダーの制限を促す指針。制限を課したのは10か国 2023年6月
ドイツ 5Gコア網は2026年末までに除去。無線・伝送網は管理システムの重要機能を2029年末までに置換 2024年7月

(出典:英国政府、米議会調査局、RCR Wireless、欧州委員会、ドイツ連邦内務省、BNN Bloomberg)

EUでは、2026年1月に欧州委員会が示した改正案に、高リスク供給者の部品を主要な5G設備から36か月以内に外す案が含まれていました。しかし2026年9月には、加盟国側の案が36か月の期限を削除し、期間をリスクや設備の更新周期で決める形に改めたと報じられています。最終内容は欧州議会との交渉次第です(出典:Euronews、Jones Day、Reuters)。

ここで切り分けたいのは、排除の対象が基地局や通信網の中枢といった機器だということです。SEPの使用料は、規格に沿った端末や機器の台数、契約の更新で決まります。Huaweiは5G特許の大手保有者です。2024年のライセンス収入は約6.3億ドルで、同社によれば4G・5G端末からの収入が大半でした(出典:RCR Wireless 2025年11月)。排除されても、使用料を受け取る側です。

排除が機会になり得るのは、相手国が自国での生産を求める現地生産ライセンスと、基地局の仕様を公開して異なる会社の機器を組み合わせられるようにするOpen RAN(ラン)に限られます。機器の輸出は、価格・実績・保守網での競争です。措置は数か月単位で変わり得るため、最新の公表で確認してください。

3|3つの稼ぎ方—製品輸出・SEPライセンス・現地生産ライセンス

稼ぎ方 収益の源泉 必要な資産 主なリスク
製品輸出 機器の販売と保守 量産体制、海外の営業・保守網 価格競争、為替、相手国の調達方針の変更
SEPライセンス 規格を使う企業からの実施料(特許の使用料) 規格に採用された特許、標準化での提案力、交渉・訴訟の体制 必須性や料率を巡る争い、成果が出るまでの長さ
現地生産ライセンス 相手国で生産する企業からの技術料・設計料 設計・製造ノウハウ、技術移転の契約管理 技術の流出、相手企業が自力で作れるようになり契約が終わる

SEPライセンスの規模は、大手の開示から読み取れます。Nokiaの特許ライセンス部門であるNokia Technologiesの2025年の売上高は15億100万ユーロで、前年の19億2,800万ユーロから約22%減りました。主因は、前年に計上した過去分の支払い4億ユーロ超の反動です。契約に基づく年間売上の水準(ランレート)は、約14億ユーロとしています。収入は契約の更新や大型契約の時期で上下します。同社は、5Gの必須特許として宣言した特許ファミリー(同じ発明を各国で出願した特許のまとまり)が7,000件を超えたとしています(出典:Nokia 年次報告書2025年版、Nokia 2025年1月発表)。Ericssonの2025年のIPR(知的財産権)ライセンス収入は145億スウェーデン・クローナで、前年の140億クローナから増えています(出典:Ericsson 年次報告書2025年版)。

この収入を支えるのが、FRAND(公正・合理的・非差別的な条件)での許諾義務です。SEPの保有者は、規格を使いたい企業に妥当な条件でライセンスを出すと約束します。通信規格を誰もが走る高速道路にたとえると、SEPはその一部区間の持ち分で、どの会社の機器が走っても通行料が入ります。実施料の透明化を狙ったEUのSEP規則案は、2025年2月に撤回されました(出典:欧州委員会 IPヘルプデスク)。料率は今も交渉と裁判で決まり、交渉力の差が収入の差になります。

現地生産ライセンスは、機器を輸出せずに市場へ入る方法です。技術の流出をどう管理するかが成否を分けます。

4|M&Aで時間を買う—Vonageの減損が示す条件

自社で育てるには時間がかかる領域では、買収が選択肢になります。Ericssonは2022年に約62億ドルでVonageを買収し、2023年10月に約320億クローナ、2024年にも主にVonage関連で153億クローナの減損(買収した事業の価値を引き下げる会計処理)を計上しました(出典:Ericsson 2023年10月・2024年7月の発表)。Vonageはクラウド通信とAPIの事業で、知財戦略の失敗例ではありません。ただ、買う前に成功の基準と撤退の水準を決める必要を示しています。

5|進め方—6Gの日程に合わせる4ステップ

3GPP(携帯電話の通信規格を作る国際団体)は、2026年6月に6G(次世代の通信規格)の日程を承認しました。6Gの最初の機能凍結は2027年3月、最終凍結は2029年3月です。最初の凍結は6Gなどの作業項目(検討テーマ)を承認する区切りで、商用化は2030年頃を目指します(出典:IEEE ComSoc Technology Blog、Light Reading、2026年6月)。新しい提案を規格に通せる期間は限られるため、中堅企業はまず既存特許の評価から入ります。

STEP1 知財の棚卸しと評価軸の変更

保有特許を3つに分けます。「規格に関わるもの」「製造ノウハウに近いもの」「使っていないもの」です。知財部門の評価には、先行指標(標準化への寄与、宣言件数)と遅行指標(ライセンス収入、交渉案件)を加えます。

STEP2 SEP該当性の評価とパテントプール参加の判断

規格に関わる特許が、本当に規格に必須かを評価します。必須と認められる見込みがある特許は、パテントプールに参加できるか、参加した場合の費用と収入の見込みを調べて判断します。人材がいなければ、外部の専門家を使います。

STEP3 標準化活動と交渉体制は条件付きで

棚卸しで規格に近い領域が見つかり、継続して人を出せる場合に限り、3GPPなどの会議に技術者を送ります。単独で難しければ、業界団体や大学との共同提案を使います。Open RANは、大手以外の部品・ソフトウェア企業が規格に加わる入口になります。収入までの期間は事業計画に入れます。

STEP4 現地生産ライセンスとM&Aの検討

市場ごとに、輸出・ライセンス・現地生産の許諾のどれが適するかを判断します。足りない技術は提携や買収で補い、撤退の基準を先に決めます。

6|よくある誤解—知財戦略で判断を誤るパターン

誤解① 「中国ベンダーが外れれば、日本の機器メーカーに注文が回ってくる」 排除は、機器の受注を保証しません。選ばれるのは、価格・導入実績・保守体制です。

誤解② 「特許は数を多く持っていれば収入になる」 ライセンス収入を生むのは、規格に必須と認められ、相手が使わざるを得ない特許です。件数を増やしても、規格に採用されなければ維持費がかさむだけです。評価すべきは件数ではなく、どの規格のどの部分に効くかです。

誤解③ 「ライセンスで稼ぐのは、巨大企業だけの話だ」 公開された成功例は、Nokia・Ericsson・Huaweiなど大手が中心です。中堅企業が同じように稼げるかは、現時点では確認できていません。特定の技術領域で必須特許を持ち、パテントプールなどで収入を得る道はありますが、標準化会議への継続参加と交渉体制に時間と費用がかかります。数年単位の投資として、見込みを割り引いて判断します。

7|経営判断チェックリスト—今やるべきか否かの判断軸

知財の収益化を優先すべき企業の条件

  • 無線・光伝送・半導体など、通信規格に関わる技術を持っている
  • 製品の価格競争で利益率が下がり続けている
  • 知財部門の評価が、出願件数や費用の削減に偏っている
  • 海外市場に、輸出ではなく現地生産を求められる国が含まれている
  • 6Gの日程(2027年3月と2029年3月の凍結)と、自社の研究開発計画を照らし合わせたことがない

今やるべきかの判断軸

経営陣が、次のことを把握しているかどうかです。「自社の技術のうち、規格に組み込める可能性があるものがどれだけあるか」。把握していなければ、STEP1の棚卸しとSTEP2の評価だけでも早く始める価値があります。

やらない場合のリスク

知財をコストとして扱い続けるリスクは3つあります。第一に、規格に技術を組み込む機会を逃し、他社にライセンス料を払う側に固定されること。第二に、価格競争から抜け出せず、利益率の低下が続くこと。第三に、現地生産を求める国の市場に入る手段を持てないことです。

8|経営者への一言

排除の追い風を待つより、自社の特許が規格のどこに効くかを数えること。機器は一度売れば終わり、権利は規格が使われる限り続きます。

参考文献

1分で鍛える意思決定 / 戦略【登録者限定】

無線部品をつくる従業員400名ほどのメーカーで、製品の値下げ競争が続き利益率が落ちている。知財部は出願件数で評価されており、持っている特許がそれぞれ何に効くのかは整理されていない。

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